訓練再開より「訓練中断」が国民を不安にさせる。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





大震災対処の成果は平素の訓練や教育があってこそ。


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員奮励努力セヨ。 


2011.11.02(水)桜林 美佐






自衛隊の災害派遣活動について記した拙著日本に自衛隊がいてよかった が大きな反響の声をいただいている。全ては、自衛隊の活躍ぶりが評価されてのことである。

 しかし同書でも記したように、本来、災害派遣は自衛隊の中心的な任務ではない。自衛隊はあくまでも国防を担う組織である。

 この度の大震災対処の成果は、平素の訓練や教育があってのことだ。今後、災害派遣を過剰に意識した装備調達などの防衛力整備がなされてはならないと強く感じている。

訓練の遅れを取り戻すのは容易なことではない

 そうした中、航空自衛隊小松基地所属のF15戦闘機から燃料タンクが落下した事故を受け、同機の訓練はストップ。10月31日から小松基地以外で訓練が再開されたが、1カ月近くの遅れが生じたことになる。

 今年は震災の発生で、ただでさえ自衛隊の訓練計画に影響が出ている。

 組織力の維持のため、いや「組織の意地」とでも言おうか、陸・海・空自衛隊それぞれが今年1年の計画に大きな狂いが生じぬよう、努力をしていたところであった。

 しかし、実際に生じてしまった遅れを取り戻すことは容易なことではない。指揮官たちの苦悩は想像以上であり、それこそメンタルケアの必要性を指摘する声もあるほどだ。

 ここで忘れてならないのは、災害派遣の疲れを取る間もなく再び訓練に邁進する隊員たちを激励すべきなのは、他でもない私たち国民全てだということである。

 ところが、その国民の代表たる政治家は、何かことがあれば「不安を与えてはいけない」と、即座に訓練を中止する判断を常に下してきた。

 確かに、事故が起きれば再発防止のための調査を徹底的に行うのは当然である。しかし、訓練を止めることによって練度が低下し、日本の防衛に支障をきたすようなことがあれば、それこそ国民に将来の「不安を与える」以外の何ものでもない。

そのような常識から考えれば、国民は事故の原因究明と同時にすみやかな訓練再開を求め、日本の防衛に努めてほしいと訴えるのが道理である。「不安になるから訓練はしないでほしい」というのは、結局、わが国の防備が手薄になることを歓迎しているのに等しい。

「訓練以上のことはできない」

 一方、自衛隊内でも、今回の災害派遣活動中や活動を終えた直後、訓練を始めるべきかどうか賛否両論があったと聞く。

 それは、世間の目や被災者を気遣ってのことであったり、激務を終えたばかりの隊員をすぐに厳しい訓練に戻していいものかという不安感もあったからだという。指揮官によって判断が分かれることもあり、訓練再開にばらつきが出たとも聞く。

 また、宮城県東松島市の松島基地 ではパイロット教育のためのF2戦闘機18機が水没した。

 同機のパイロット養成をこれからどうするのか、国はその点をもっと問題視すべきだが、論点は損害や責任追及にのみ向けられ、わが国の安保政策の拙劣さを物語っている。

 「訓練以上のことはできないと、改めて思いました」

 先日、20年前にペルシャ湾へ派遣された隊員との座談会があり、私は進行役を務めたが、多くの方から異口同音に聞かれた言葉だった。

 掃海部隊は毎年、硫黄島での実機雷訓練を行っている。その経験がなければ、あの「湾岸の夜明け作戦」はなし得なかっただろうというのだ。

 実はこの実機雷訓練は、かつて一度、実施を中断している。しかし、中断による練度の低下を危惧した掃海関係者の努力により、再開されることになった経緯がある。

 一度途切れたものを再び始めるには、相当な労力を要したことだろう。それが、後々にわが国の大きな力になったことを思えば、当時の人々の判断と努力には頭が下がるばかりだ。

今年、未曽有の大震災を経験した自衛隊について様々な検討課題が言われているが、訓練の遅れを取り返すことは最重要課題だと言えよう。

無関心で無理解な政治家たち

 政治家はどうだろうか。どうもこうした本質を理解しているように思えないのが残念だ。

 これは、民主党政権に限ったことではない。もしも自民党が政権を奪い返した際には、以前とは違う安全保障政策をやってくれるのではないかと期待する人はいるはずだ。だが、自民党でも無理解な人物は相変わらず健在のようだ。

 燃料タンク落下事故では、自民党の森喜朗氏(衆議院議員、石川県第2区)が対応の遅れを叱責したという。また、先般の台風による和歌山県での災害派遣では、やはり自民党の二階俊博氏(衆議院議員、和歌山県第3区)が一川保夫防衛大臣に「自衛隊はもっと柔軟に対応するように」と要求したと聞く。

 いずれも自衛隊への本質的な理解が不明なため、与野党を超えたアドバイスというより、地元へ配慮せんがため自衛隊を利用しているように見えてしまう。

 10月26日に海上自衛隊の練習艦隊が150日余りの遠洋航海を終え、晴海で帰国行事が行われたが、自民党からの出席者はごくわずかだったという。

 国会開会中であることは承知の上だが、帰国隊員が久しぶりに見た日本の国会議員のほとんどが民主党であったことは間違いない。

 また最近、自衛隊関係者がある自民党議員事務所を訪れたところ、秘書に門前払いされたとも聞いて、驚いた。

 日本に致命的な事態が起きる前に、政治家はもう少し自衛隊の存在意義と本質を学び直した方がいいのではないだろうか。