文科省は竹富町に是正の要求を。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【正論】拓殖大学客員教授・藤岡信勝




沖縄県の八重山採択地区協議会(石垣市、竹富町、与那国町で構成)が正規の手続きで選んだ中学校の公民教科書(育鵬社)の採択を、竹富町のみ拒否し続けている問題は、1カ月半にわたり放置されてきたが、10月26日の衆院文部科学委員会で中川正春文部科学相は新たな見解と方針を示した。

 ≪自費購入容認は法律違反≫

 内容は、(1)協議会の答申通りの採択をした石垣市と与那国町は無償措置法の対象とする(2)竹富町は無償措置法の対象としない(3)町の予算で自費購入することは違法ではない-の3点だ。(1)は当然で、議論を要しない。だが、(2)と(3)については、従来の文科省方針の大転換であり、法治国家の解体につながりかねない重大性を孕(はら)む。

 簡単な復習から始めよう。無償措置法第13条4項は次のように規定している。「採択地区が二以上の市町村の区域を合わせた地域であるときは、(中略)当該採択地区内の市町村の教育委員会は、協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない」

 右の条文中、「一種」でなく「同一」と表現したのは、教育委員会による「それぞれの採択行為はあくまで別個に行われるのであるから、それぞれ採択したものが結果的に同一の種類になるという趣旨を示したものである」(諸沢正道『義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律逐条解説』1964年、第一法規)。

 その「同一」を保証するのが「協議」であり、協議の機関が採択地区協議会である。従って、各教育委員会は採択地区協議会の選定したものと「同一」の教科書を採択することが義務づけられている。「地区内で同一の教科用図書を採択することが法律上強制されている」(前掲書)のである。今回の問題では法制度の不備や欠陥に原因があるかのような論調が見られるが、誤りである。一般の人には少しわかりにくいとはいえ、法律上の不整合は存在しない。

 ≪建て替え決議反対にも似て≫

 竹富町は、教科書の採択権限は教育委員会にあるという地方教育行政法の一般的規定を根拠に、協議会の決定に従うことを拒否しているが、理由にならない。集合住宅の区分所有者は法律の定める条件を満たす建て替え決議がなされたときは、意に反する場合でも多数派の決議を受け入れなければならない。同町の行動は「財産権を根拠にあくまで建て替えに反対し続ける区分所有者」と同型の児戯に類し、社会的に通用しない。

 竹富町の慶田盛(けだもり)安三教育長は採択地区協議会の開催前、地元紙の質問に、「つくる会系」の自由社や育鵬社の教科書に関し、「『集団自決』の実相を正しく伝えていない」ことを理由に、「こういう教科書は絶対に子どもの手に触れさせてはならない」と語った。文科省検定済み教科書を“バイキン扱い”する感覚は尋常ではない。のみならず、協議会が「つくる会系」2社の教科書を採択した場合は、町教育委員会で不採択を提案する考えも明らかにしていた(8月23日付の沖縄タイムス紙)。

 竹富町の教育行政当局は、もともと法律を守る意思のない「確信犯」であり、それはその後の行動でも裏付けられている。こんな相手には、文科省がこれまで続けてきた法的強制力のない「指導・助言・援助」では、ことは解決しないのは自明だ。文科省はこれ以上の手がないかのような言辞を弄しているが、著しい欺瞞(ぎまん)である。

 ≪法治の土台崩す「日教組政権」≫

 地方教育行政法第49条は、「市町村教育委員会の教育に関する事務の管理及び執行が法令の規定に違反するものがある場合」において、「児童、生徒等の教育を受ける機会が妨げられている」ことが明らかなときには、地方自治法の規定に基づき文科大臣が強制力を伴った「是正の要求」をすることができ、その場合、「求め」と、さらに強制力の強い「指示」の2通りの方式がある、と定めている。今回のケースはまさにこの規定にあてはまる。もはや文科省は是正要求に踏み切るべきである。

 文科省や関係者は、口を拭って「是正の要求」という手段があることを語らない。理由は2つしか考えられない。第一は、紛争の起こった地域が沖縄だからである。他の地域で同様なことが起こったとしたら、もっと早く強い態度で臨んでいるであろう。第二は、野田内閣が、与党の幹事長をはじめ党と政府の要職を多数の日教組出身者が占め、文科相も選挙で日教組の推薦を受けているなど、「日教組政権」といっても過言でない陣容となっているからである。

 「竹富町は無償措置法の対象としない」という新方針は、表向き強硬にみえても、違法行為の追認にほかならない。そればかりか、法制局の見解まで用意して「町の予算で自費購入すること」を慫慂(しょうよう)する。違法行為の幇助(ほうじょ)である。

 これを認めるなら、現行の教科書採択制度は一挙に崩壊する。そればかりか、気に入らない法律は守らなくてもよいという既成事実ができれば、法治国家そのものの土台も崩れる。野田政権の歴史的責任が問われているのである。


                               (ふじおか のぶかつ)