FXで対中の国家意思を鮮明に。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【正論】拓殖大学大学院教授・森本敏




日本の防衛力を構成する主要装備品は、主として国内防衛産業で開発され、生産されている。その装備品の整備や技術革新も多くは防衛産業に依存している。防衛産業の貢献と努力がなければ国家の防衛が成り立たないのである。


戦闘機開発の長期構想にらめ


 ところが、防衛費が毎年、削減されて装備品の調達が減少するに連れ、防衛産業やその下請企業は兵器産業から手を引き、技術者は職場を離れたり倒産の憂き目にあったりしている。日本はこのままだと、革新的な世界の兵器産業技術に全く追随できなくなる。

 日本の戦闘機も、1950年代から半世紀にわたり、防衛産業によって生産(ライセンス生産を含む)されてきた。それが、先月、F2戦闘機の生産が終了したことで今後、戦闘機生産の空白状態が生まれかねない状況となった。

 F4の後継機となる日本の次期主力戦闘機(FX)の選定は、そうした中で進められている。だからこそ、目下、政府部内で真剣かつ厳正に検討されている結果がどの機種に落ち着こうと、その選択は戦闘機の長期的な開発構想に基づくものでなければならない。

 選定する際の基準は第一に、戦闘機の開発・生産および運用支援を行う国内防衛産業の、将来にわたる生産・技術基盤の育成に資するかどうか、という点にある。戦闘機の運用能力や可働率は防衛力そのものであり、これを支えるのは防衛産業の基盤能力である。FXの導入により、国内防衛産業が最先端の革新的な技術を取得できるようになることが望ましい。

先月、米テキサス州のF35生産ラインを見学して、その技術革新ぶりに驚嘆した。戦闘機は、機種を決めてから30年近く使用することになる。FX選定の次には、F2の後継機をどうするかという問題が、そのまた次には、主力戦闘機F15の後継機をどうするかという最重要の課題が控えている。

 今、3機種ある戦闘機を将来、1機種に絞るのは防衛上望ましくないし、技術開発面からもあり得ない。となると、10月13日付本欄でジェームス・E・アワー氏が鋭く指摘したように、第六世代機の日米共同開発を検討すべきであろう。ただし、F2後継機は国産開発機とし、F15後継機を(日米基軸の)共同開発機にするという選択肢もあり得るのではないか。

 繰り返すが、いずれにせよ、戦闘機開発の長期展望に立ち防衛産業への貢献度に配慮しつつ、FX選定を行うことが肝要である。


アジア安保環境にどう対応


 第二に、アジアの安全保障環境にFXがどう対応できるかだ。

 米外交専門誌フォーリン・ポリシー最新号に掲載されたクリントン米国務長官の論文は、米国、中国、インドを「アジア太平洋の3つの巨人」と位置付けている。日本やロシアは「巨人」の数に入っていない。こうした戦略観の基礎にあるのは対中戦略であり、国防費削減を余儀なくされる米国は中国のさらなる台頭を視野に同盟国に「もっとやれ」と言っている。訪日するパネッタ米国防長官の主要メッセージも、それである。

中国は、今年すでに初飛行を行った第五世代戦闘機を2016年以降に展開してくるであろう。日本に近づき第一列島線を越える中国の空母や洋上艦船、潜水艦の上空を守る第五世代戦闘機に、適切に対処できなければ、日本は領土も海上交通路も守れなくなる。

 中国のみならず、ロシアもこのところ冷戦時代のように極東兵力を増強しつつある。主力は冷戦期とは違う最新鋭の海・空戦力だ。ロシアの第五世代戦闘機も昨年、初飛行を行っており、15年以降には極東に配備されるであろう。


日米同盟への意味合い考えよ


 アジア諸国がFXに注目しているのは、それを、激変する東アジアに対する戦略、とりわけ対中戦略という日本の国家意思を測る物差しと捉えているからである。

 戦闘機は価格よりも性能が優先される。現代戦は、少しでも性能の優れた兵器体系が他を完全撃破するデジタル戦である。いずれの戦闘機も高価である。だが、安価な戦闘機をいくらそろえても性能が相手より低ければ、何の効果もない。アジアの将来展望を踏まえてFXを選定すべきであろう。

 第三に、FXが日米同盟に与える意味を考慮することだ。日米同盟は冷戦終結後、冷戦期よりはるかに重要な意義を有し、軍事・外交から経済・エネルギー・環境まで広範な領域に及び、国家の生存と繁栄に深くかかわっている。

日米同盟における役割分担についていえば、主として、日本が領域内の防勢作戦に当たり、米国が領域周辺の攻勢作戦を受け持つとされてきた。この図式は現在も、基本的には変わっていない。しかし、米国が「もっとやれ」と言っているのは、領域と役割分担を柔軟に変えろという意味である。

 米空軍は、アジア地域にF22とF35を展開させる計画を持っている。FXの選定に当たっては、そうした事情も念頭に、日米同盟間の相互運用性(インターオペラビリティー)を強化するという点も考慮することが必要であろう。

(もりもと さとし)