【主張】普天間移設
政府は米軍普天間飛行場の移設先として日米両国が合意した名護市辺野古地域の環境影響評価書を年内に提出する方針を沖縄県の仲井真弘多知事に伝え、法に基づく行政手続きが動き出した。
この問題で迷走を重ねた過去2年間に中国の海洋進出や軍備増強が一段と進み、日本の安保環境はとみに悪化した。野田佳彦政権が移設の意思を示したのは当然といえる。だが、「民主党への県民の怒りは解消されていない」(仲井真知事)との不信も根強く、早期着工のハードルは依然高い。
今必要なのは米国向けの「アリバイ作り」よりも、日本の安全を真に確保するために、野田首相自らが政治生命を懸ける覚悟で地元の説得に汗を流すことだ。
日米合意による移設について防衛省は自民党政権下の平成19年から環境影響評価法に基づき必要な手続きに入っていた。ところが、民主党の鳩山由紀夫政権が「県外移設」を持ち出したことで中断され、今年6月の代替施設確定を経てようやく作業が再開された。
この間に中国は海洋権益を拡大させ、米国の対日不信も深まるなど、鳩山、菅直人両政権が移設問題を逆行・放置してきた責任は極めて重いといわざるを得ない。
オバマ米大統領が9月の日米首脳会談で「結果を出す時が近づいた」と野田首相に促したのも、そのためだ。来週、パネッタ米国防長官が中間報告を聞くために初来日することもあって、政府は具体的な進展を示す必要があった。
だが、知事らは昨年1月の名護市長選で民主党が移設反対派を支援した経過や「県外→辺野古」へ回帰した理由に疑問や怒りが解けないのが実情だ。
問題は、日本の安保環境や日米同盟の実効性に即して普天間移設がなぜ不可欠か、沖縄を含む国民の平和と安全に代替施設確保がいかに大切かを納得いくまで説明する努力が見えないことだ。それなしに地元の不信は除けない。
そのためには、閣僚らの沖縄詣でや財政措置だけでは不十分だ。抑止力としての在沖海兵隊の役割や日米安保体制の必要性について首相自身が足を運び、理を尽くして県民に訴えるしかない。
移設ができなければ、「世界一危険な基地」とされる普天間の現状固定化という最悪の結果も避けられない。そのことも誠意をこめてきちんと語る必要がある。