リスク管理見直す契機に。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【主張】タイの大洪水




タイの洪水被害が拡大している。日系企業への影響も深刻で400社以上の工場が被災し、部品供給が止まった周辺各国の工場までが操業停止に追い込まれている。

 特に自動車メーカーにとってタイは東南アジア最大の生産拠点で、世界への輸出基地でもある。復旧に全力を挙げるタイ政府を支援するのは当然だが、今回の洪水は国際規模のサプライチェーン(部品供給網)寸断と海外進出のリスク管理という問題を日本企業に突きつけたといえる。

 野田佳彦政権も「対岸の火事」と傍観せずに、日本の産業政策全体にかかわる問題として真剣に受け止め、産業界とともに具体策を練り上げる必要がある。

 被災した日系企業に対しては資金繰り支援や工場・設備の復旧費用の緊急融資が必要だ。現地に工場を設けている地方の中小企業も少なくない。日本政策投資銀行や大手銀行だけでなく、地銀も資金供給に万全を期してほしい。経営支援では、日本貿易振興機構(JETRO)が現地に相談窓口を設けるなど対応を急ぐべきだ。

 タイへの日本企業進出の歴史は1960年代から始まった。政情が比較的安定し、安い人件費、外資優遇措置が充実していることが進出を後押しした。手厚い政府開発援助(ODA)を通じて緊密な関係にもある。

 そうした中で、今回の洪水は改めて海外進出の難しさを浮き彫りにした。被災企業は東日本大震災のときのようにサプライチェーンが断絶した場合の対処に加えて、今後は海外進出先でのリスクをいかに分散しておくべきかという生産体制の見直しも迫られよう。

 その場合、日本国内への再立地も当然選択肢に含めるべきだ。企業が国内に戻ってくる意欲を持てるように、政府が法人税を優遇したり、特区制度を活用して規制緩和を大胆に進めたりする措置が不可欠なのはいうまでもない。

 今回の洪水は今春から平年を上回る降雨に始まり、6月以降は豪雨が続いたことが要因だ。専門家は地球温暖化に伴う気候変動の影響で、今後も大洪水が恒常化する危険があると警告している。

 日本も今年は大震災に加えて、大きな台風被害に見舞われた。日本の教訓をタイ政府に伝えることが大切だが、日本企業の海外進出に伴うリスク分散を考える契機と位置づけることも重要だ。