【世界のかたち、日本のかたち】大阪大教授・坂元一哉
■普天間移設 泥かぶる覚悟で
訪米した野田佳彦首相に対してオバマ大統領は、普天間飛行場移設問題の早期解決を迫った(9月21日)。大統領の発言は「結果を求める時期が近づいている」というものだったらしい。
この発言のニュアンスは知らないが、もういい加減にしてほしい、というのが大統領の本音ではないか。鳩山由紀夫元首相は「トラスト・ミー(私を信じて)」と言いながら、何カ月も迷走した末に自民党政権時代の日米合意に戻ることを決定した。次の菅直人前首相はその決定を引き継いだが、合意の実行に熱意を示さなかった。両者で2年の時間を空費し、事態はまったく進展の気配を見せていない。東日本大震災という突発事があったとはいえ、オバマ大統領がいらだちを覚えたとしても無理のない話である。
野田首相は沖縄の理解を得られるよう全力をつくすと大統領に約束した。たしかに首相には、この問題の解決に全力をつくしていただく必要がある。米国の大統領にせかされたから、というわけではない。日本政府が外国政府との間で明確に合意していることを国内事情でいつまでも実行できないのでは日本の信用にもかかわるからである。
ただ「沖縄の理解を得る」のは容易ではない。問題の背景には米軍基地の集中に対する沖縄県の強い不満がある。沖縄県は、土地は日本全体の約0・6%、人口は約1%だが、在日米軍基地面積の約74%を引き受けている。最も基地が集中する沖縄本島中部では土地の約24%を米軍基地が占める。
この沖縄の過重な基地負担を軽減するため、日本政府もそれなりの努力をしてきた。実際、人口密集地にある米軍普天間飛行場をそうではない場所に移す。しかもすでに米軍基地(キャンプ・シュワブ)がある場所(名護市辺野古崎地区)に移す。そうした日米合意も、危険を減らすという点では、基地負担軽減の努力に違いない。
だが沖縄県は、県内移設の日米合意に強く反発している。県内移設では、米軍基地の沖縄への不均等な集中という状況の改善にはつながらないからである。
首相は沖縄県の反発にどう対応するか。今後の基地負担軽減策、それに基地負担の見返りとしての振興策などをしっかり説明して、日米合意への理解を取り付けたい。おそらく、そういう心づもりだろう。
だが、それはうまくいくだろうか。過去2年間の経緯やいまの沖縄の世論を考えると、沖縄県側が日米合意に理解を示すというのは、かなり難しいのではなかろうか。
仮に「沖縄の理解を得る」ことができない場合はどうなるか。これ以上の先送りは普天間飛行場の固定化につながる恐れがある。
そのため首相は、沖縄県が理解を示さなくとも、政府の責任で日米合意の実行を決断しなければならないかもしれない。それは沖縄基地問題だけでなく、日米同盟の将来にも重大な影響を与える決断になる。
前任者たちの大きなつけを負わされる損な役回りである。だが首相は民主党の代表選挙では自らを「どじょう」にたとえた。まさに相当の泥をかぶる覚悟でこの問題に取り組んでいただきたいと思う。
(さかもと かずや)