【緯度経度】ワシントン・古森義久
米国の対外援助に大きな変化が起きてきた。最大の要因は政府支出の画期的な削減の影響を受けての大幅な減額である。その流れに合わせて援助の目的や内容を根幹から変えようという動きも目だってきた。この変化は米国外交だけでなく日本の政府開発援助(ODA)政策にも影響を及ぼしそうである。
米国政府の援助の削減で象徴的なのは、今年の予算でオバマ政権のエジプト向けの援助を議会が2億5千万ドルも一気に削ったケースだった。クリントン国務長官は「米国の安全保障に重大な被害を及ぼし、米国の世界的リーダーシップにも損害を与える措置だ」という怒りの言葉を発した。オバマ政権では中東諸国の民主化への激動による「アラブの春」を推進するために現代版マーシャル計画とも呼べる巨額の経済援助までを考慮していたが、政府赤字削減の至上命令にあっさりと阻まれた。
オバマ政権はこの10月1日からの2012会計年度に対外援助590億ドルを求めたが、下院は470億ドルへ、上院は530億ドルへと、削減した。2010年度には550億ドルだったから、大幅な減額である。
このため援助の額よりも質や手法を重視する政策意見が続出するようになった。
オバマ政権で対外援助を担当する国際開発庁のラジブ・シャー局長は、援助には必ず具体的な果実を生む投資の機能を持たせるという新政策を強調するようになった。同局長はまた援助を受け取る側の国の政治的な透明性を重視すべきだともいう。民主的な政体で援助の使い方も外部からみてよくわかることが必要だというのである。
米国内での米国民のための政府支出が厳しく審査され、削減の対象となっている現在、遠い外国への公的資金の供与はとくに厳密に費用対効果が問われるようになったわけだ。
下院外交委員会の民主党筆頭委員のハワード・バーマン議員はこの9月、米国の対外援助の内容や方法を具体的に規定する「グローバル・パートナーシップ法案」を提起した。米国の対外援助の基本の法的指針はここ半世紀、「1961年外国援助法」のままだった。新法案は東西冷戦時代からの現行法を現代の緊縮財政にあわせ、米国にとっての効率のよさを主眼とする新たな規範にする狙いだといえる。
だからこのバーマン法案は「援助は贈り物ではない」と規定し、「米国にとっての安全保障上の利益」や「米国民への寄与」の追求を強調する。援助の供与も米側の価値観に合わせ、人権弾圧や核拡散の国には与えない。しかも援助全体を「結果志向」にするという。
一方、保守系のシンクタンクのヘリテージ財団は対外援助を米国自身の外交利益に直結させるべきだとして、「対外援助と国連での投票のリンクづけ」という政策案を発表した。多額の援助を長年、与えていても国連では米国の提案にいつも反対という国がかなり多いので、その種の国への援助は減らすという実利的な発想である。その背後には「米国の資金はあくまで米国を利する形で使う」という考えがあるわけだ。
こうみてくると、外国への経済援助を外交政策の主要部分に組み込んできたODA先進国の米国でも、対外援助のあり方はいまや大きな曲がり角にさしかかったといえそうである。