日本が中距離ミサイルを配備する日。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





米国だけではもはや手に負えない中国の膨張


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員奮励努力セヨ。 






日本は、中国を射程におさめる中距離ミサイルの配備を考えるべきだ」


――。米国の元政府高官ら5人によるこんな提言が、この9月、ワシントンで発表された。

 

 日米安保関係の長い歴史でも前例のないショッキングな提案である。日本側の防衛政策を巡る現状を見れば、とんでもない提案だとも言えよう。

 憲法上の制約という議論がすぐに出てくるし、そもそも大震災の被害から立ち直っていない日本にとって、最新型兵器の調達自体が財政面ではまず不可能に近い。

 しかしこの提案をした米側の専門家たちは、歴代の政権で日本を含むアジアの安全保障に深く関わってきた元高官である。日本の防衛の現実を知らないはずがない。それでも「日本は中距離ミサイル配備を」という物騒にさえ響く大胆な提案を打ち出したのだ。

 その背景には、日米同盟が今や戦後最大の曲がり角にさしかかったという実態が浮かんでいる。今のアジアの安全保障の現実、そしてその安全保障を保とうとする米国の軍事や財政の現実は、今まで想像もできなかった変化へと直面するようになったのだ。

米国一国では太刀打ちできなくなた中国の膨張

 この提言が打ち出されたのは「21世紀のアジアの同盟」(PDF )と題する報告の中である。

 同報告は、ブッシュ前政権の国務次官補代理のランディー・シュライバー氏、同政権国防総省中国部長のダン・ブルーメンソール氏、クリントン元政権で同じ国防総省中国部長だったマーク・ストークス氏ら5人により作成された。

 5人が所属する研究機関としては「プロジェクト2049研究所」と「アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)」とが名を連ね、両研究所が共同で公表した調査報告という形をとっていた。だから、あくまで米国のアジア安全保障政策の担い手の主流から出てきた提言なのである。

 同報告の内容は、タイトル通り、米国のアジアでの同盟関係が21世紀にはどうあるべきかについての提言である。同報告は、まず21世紀のアジアでの最大の変化は「中国の膨張が、従来の米国の同盟の機能を大幅に弱めたことだ」として、その結果、米国が従来、基本的に一国で引き受けてきた同盟国防衛、戦争抑止、公海の安全保障などの機能も、同盟パートナー側の寄与の増大なしには果たせなくなる、と指摘していた。

同報告は、このため米国がパートナーの寄与拡大で2国間同盟を強化するだけでなく、米国を車輪の要とする米日、米韓というような2国間同盟の並列を、同盟国同士も相互に連携する集団的体制へとシフトさせることが必要だとも提言した。

 その過程では、中国が米国主導の既成の国際秩序に挑戦する構えをとってきたため、米側は民主主義諸国の連携を基盤にすべきだという。

 要するに、米国は中国の軍事パワーの拡大に押されて、同盟諸国のこれまでよりずっと多くの寄与を得る必要に迫られている。そうしなければ、アジアの平和と安定を守る役割も、軍事衝突を抑止し、いったん戦闘が起きた際には優位に立ってそれを抑える役割も果たせなくなってきた、というのである。

 この状況は、まさに米国の戦後のアジア関与の歴史でも最大の変化と言えよう。中国の膨張はアジア情勢にそれほどの変容をもたらしているのだ。

米国が日本に求める大幅な軍事寄与

 さて、この報告の日本に関する指摘や提案が面白い。

 報告は、アジアでの米国の新しい同盟関係の構築では日本こそが最重要の役割を果たすと、強調する。これまでは限定的な安保協力しか求めてこなかった日本には大幅な軍事寄与を求めねばならない、というのだった。朝鮮半島での戦争勃発や台湾海峡での軍事衝突開始という有事には、日本も米軍を直接的に軍事支援することが同盟維持の前提になる、とも述べていた。

 米国の日本への要請や期待としては、具体的に以下のような記述があった。


・従来、歴史的な理由などから日本に暗黙に期待した軍事抑制を撤回し、日本が軍事的姿勢を強め、消極平和主義を放棄することを求める。


・南シナ海などの領有権紛争の平和的解決や航行の自由を保つための海洋の防衛や抑止への日本の大幅な参加を求める。


・中国の台湾攻撃への抑止として日本が南方防衛を強化し、米軍の対中作戦に寄与することを求める。


・中国が台湾攻略の際に威力を発揮する空軍力と潜水艦戦力を抑止するために、日本も米国と協力して航空部隊と潜水艦を増強することを求める。


・中国が増強している中距離弾道ミサイルへの抑止として、日本も中距離の弾道、巡航両ミサイルの配備を検討することを求める。

 

 以上のうち、最後のミサイル配備の勧めが、日本にとっては最も衝撃的な提案だというわけである。

戦争を防ぐのは力の均衡

 だが、その提案にも明確な根拠はある。

 中国は射程約1800キロの準中距離弾道ミサイル(MRBM)の主力「DF21C」を90基ほど配備して、非核の通常弾頭を日本全土に撃ち込める能力を有している。同じ中距離の射程1500キロ巡航ミサイル「DH10」も総数400基ほどを備えて、同様に日本を射程におさめている。米国防総省の情報では、中国側のこれら中距離ミサイルは、台湾有事には日本の嘉手納、横田、三沢などの米空軍基地を攻撃する任務を与えられているという。

 しかし、米国側は中国のこれほどの大量の中距離ミサイルに対して、同種の中距離ミサイルを地上配備ではまったく保有していない。米国は東西冷戦の末期に旧ソ連との間で中距離核戦力(INF)全廃条約を結び、パーシングII型のような中距離ミサイルを文字どおり全廃してしまったのだ。ロシアも同様である。だからこの階級のミサイル配備は、今は中国の独擅場なのである。だから同報告は、米側のその空白を日本が埋めることを求めたのだ。

 報告は次のように解説していた。

 「中国は日本を攻撃できる中距離ミサイルを配備して、脅威を高めているが、日本側も、もし中国のミサイル攻撃を受けた場合、同種のミサイルで即時に中国の要衝を攻撃できる能力を保持すれば、中国への効果的な抑止力となる」

 衝突しうる2国間の軍事対立では、力の均衡が戦争を防ぐという原則である。抑止と均衡の原則だとも言える。実際に米国とソ連の対立を見ても、中距離ミサイルは双方が均衡に近い状態に達したところで相互に全廃という基本が決められた。

 一方だけがミサイル保有というのでは、全廃や削減のインセンティブは生まれない。だから中国の中距離ミサイルを無力化し、抑止するには、日本側も同種のミサイルを保有することが効果的だというのである。

 日本がこの提案の方向へと動けば、日米同盟の従来の片務性を減らし、双務的な相互防衛へと近づくことを意味する。米国も対日同盟の有効な機能の維持には、「もはや日本の積極果敢な協力を不可欠と見なす」というところまできてしまったようなのである。