【主張】天宮1号
ここまで来たかという感懐と同時に、これからどう進んでいくのかという危惧の念を抱かせる成功といえる。
中国が宇宙実験機「天宮1号」を先月30日、地球を回る軌道に乗せた。“中華宇宙ステーション”建設の第一歩となる打ち上げだ。
11月には宇宙船「神舟(しんしゅう)号」を無人で飛ばし、天宮1号とドッキングさせる。成功すれば小規模で無人だが、宇宙ステーションの原型の出現である。
ドッキングは、その後も繰り返され、2020年ごろには宇宙飛行士が長期滞在できる60トン級の有人ステーションを完成させる計画だ。中国は米露に続いて宇宙ステーションを建設、運用する宇宙大国への道を歩み始めた。
「宇宙利用は平和目的」と今回、中国は宣言しているが、全面的に信用することは難しい。4年前には軌道上の人工衛星を地上からのミサイルで破壊する示威的実験を行い、無数の危険なデブリ(破片)を宇宙空間にばらまく暴挙に及んだ例がある。
中国には節度ある宇宙活動を注文したい。宇宙ステーションは軍事目的にも使える。他国に脅威を与えるような方向に発展させることは厳に慎んでもらいたい。
中国は国内総生産(GDP)で日本を抜き、世界2位の経済力を誇っている。国民1人当たりでは先進国に届かないことなどを理由に自らを途上国に位置づけているが、もはやそうは言えまい。
宇宙ステーションの建設を機に、大国としての自覚と徳義の涵養(かんよう)に励んではどうか。
中国は産業活動も非常に活発だ。地球温暖化の元凶とされる二酸化炭素の世界最多の排出国でありながら、途上国の立場を固持することで排出削減義務を免れている。そろそろ自ら進んで義務を受け入れるべき時期であろう。中華ステーションは、地球環境保全のために活用してもらいたい。
ひるがえって日本の宇宙開発についても考えたい。日本の有人宇宙開発は米国のスペースシャトルに依存してきたが、シャトルが今年、退役したことで今はロシアに頼らざるを得なくなっている。
日本は、はやぶさなどに代表される宇宙の科学探査を得意としているが、この分野の技術もさらに磨きをかけることが必要だ。そうしなければ、急速な中国の進出で日本の存在感の影が薄れる。