警視庁公安部
昭和55年の原敕晁(ただあき)さん=当時(43)=の拉致事件で、警視庁公安部が、金正日総書記の当時の側近で北朝鮮工作機関・対外情報調査部の姜海龍(カンヘリョン)元副部長について、国外移送目的略取などの容疑で逮捕状を取り、国際手配することを検討していることが29日、捜査関係者の話で分かった。姜元副部長は、金総書記らから直接指示を受け、多くの日本人拉致を仕切った人物とみられており、後に対外情報調査部長にもなっている。
北朝鮮による拉致事件では北朝鮮工作員ら計11人が国際手配されているが、姜元副部長が手配されれば最高位の高官となる。警察当局は今後、外交ルートを通じて北朝鮮側に身柄引き渡しを求める方針だ。
警察当局によると、姜元副部長は、実行犯とされる北朝鮮工作員、辛光洙(シングァンス)容疑者(82)=国外移送目的略取容疑などで平成18年に国際手配=に日本人男性を拉致するよう指示。昭和55年6月、大阪市内の中華料理店で働いていた原さんを宮崎市の海岸で工作船に乗せるなど、拉致を実行させた疑いが持たれている。
姜元副部長は、北朝鮮で辛容疑者にスパイ活動を指示するなどしたうえで日本国内に送り込み、自身も57年に貿易代表団を偽装して来日。この際に辛容疑者から拉致について直接報告を受けたとみられている。
事件をめぐっては、1985(昭和60)年に辛容疑者が工作活動中に逮捕され、韓国当局の調べに対し「姜元副部長らの指示だった」と供述したとされる。辛容疑者の公判調書は翌86年に韓国・大法院で事実と認定された。
国内では、姜元副部長について事件への関与を裏付ける証拠の収集は難しいのが実情とみられるが、警視庁公安部では、韓国側で認められた公判調書などが、日本の公判などでも証拠として認められる可能性があると判断。逮捕状を取ることを検討している。
原敕晁(ただあき)さん