【主張】IAEA行動計画
国際原子力機関(IAEA)は、ウィーンで開かれた年次総会で世界の原発の安全強化のための「行動計画」を全会一致で承認して閉幕した。
この行動計画は、東京電力福島第1原子力発電所事故を教訓にまとめられた制度や運用面などの安全強化策である。
一部の国々の反対により、原案に比べて後退感の伴う内容となったものの、世界約30の原発保有国が安全性の改善に向けて足並みをそろえて踏み出した第一歩であることを評価したい。
行動計画は、原発の信頼確保と安全点検のために、すべての原発保有国が3年以内に最低1回はIAEA調査団を自発的に受け入れることなどを柱とする。
出発点は天野之弥IAEA事務局長が6月の閣僚級会合で示した特別提案だ。だが、総会前に開かれた理事会では抜き打ち調査などの強制的な性格に反対意見が強く、「原発保有国は『自発的に』調査を受け入れる」などと強制色を弱める内容に修正された。
こうした妥協に対し、承認された行動計画の実効性に疑問を示す声もある。しかし、ここは理想論にこだわるよりも、現実性を優先すべきであろう。強制的な規制は米国が嫌った。原発の新増設を促進したい中国やインドなども後ろ向きだった。ロシアや韓国も原発重視を変えていない。
理由の1つは、これらの国々がエネルギー需要の増加を不可避とみているからだろう。間もなく70億人に達する地球の人口を養うには、いや応なく膨大なエネルギー資源が求められる。そのためにも大事故の再発は許されない。
より完全な行動計画に更新していくことが必要だ。日本が率先して抜き打ち調査などを受け入れ、安全強化の取り組みへの範を垂れるべきだ。それが事故を起こした国の責務であろう。
日本国内では、脱原発を国是としようという声が勢いを増している。だが、それは早計だ。エネルギー問題は一国の自己満足で完結するものでなく、地球規模での長期展望が欠かせない。ドイツなどは脱原発に転じたが、世界全体の原発数は確実に増えていく。
苦く重い事故の教訓をかみしめつつ、原発の安全性向上に努め、成果を世界の原発利用国に普及させることが日本の果たすべき役割である。そうした国際貢献への日本の行動計画も立てたい。