え~、フジ抗議デモも大変に盛り上がってまいりまして、こうなると戦争みたいなものですな。
とうとうメインスポンサー企業にも出かけてやろうと云う。あの野郎共は非国民だ、許さねえってんで、長屋の連中もわいわいと参加いたします。
大家を先頭に一同ぞろぞろと花王本社にまいりまして、シュプレヒコールをはじめましてな。
「おい、石鹸屋!」まずは大家が景気づけに声を上げます。「カオウ洗って出直してこい!」
「つまらねえ韓流 番組なんぞ提供しやがると」威勢のいい声は熊さんだ。「全てが水の泡だぞ」
「不買運動を続けるぞ!」八さんも負けちゃいない。「なにしろ金がない」
だらしのない奴もいたもんで。
「やい花王」与太郎も立ち上がる。「えーと、えーと・・・花王(買おう)と云っても、おいらは買わない」
何だかよくわかりません。
そうこう順番にシュプレヒコールを上げるうち、最後に残ったのが田吾作。おい、おまえの番だよと皆が云っても、何だかもじもじしている。
気の短い熊さんが不機嫌なそうな声を出す。
「別に気の効いたことを云う必要はねえ。思ったとおり、声をかけりゃいいじゃねえか。声を」
こくりと頷いた田吾作、ふっといなくなりまして、しばらくして戻ってきた。つつつと本社ビルの玄関まで進むと、担いだ肥え桶からひしゃくを取り出し、えいやと中身をぶちまけた。
「ああ、あのバカ、声をかけろと云ったのに、肥えをかけやがった!」長屋の連中が大騒ぎ。
それを大家がたしなめる。「おいおい、みっともねえ。騒ぐんじゃねえ。」
「いいじゃねえか」本社ビルのロゴマークを指差して、大家がひとこと。
「花王もこれでウンの月だ」