夜更けの永田町に山鹿流の陣太鼓が鳴り響く。
どーん、どーん、かっかっか。
どーん、どーん、かっかっか。
火消し装束に身を包んだ武士は総勢47名。いずれも国思う有志の自民党議員である。先頭には大島副総裁。自民党 本部を発ち首相公邸に向かう。
どーん、どーん、かっかっか。
どーん、どーん、かっかっか。
「お待ちなさい」一行を背後から呼び止めたのは、党本部から転げ出てきた谷垣総裁だった。「一体何事ですか?」
大島が答える。
「臨時国会 の会議は僅か数日。しかも予算委員会 は開かぬと云う。内閣の力量が心配なら、閣僚を交代すればよいではないか。民主党 の国会軽視は、即ち国民軽視ですぞ。」こう云うと、目をぎょろりと剥いた。
「野田を討たねばなりませんぬ。留め立てはご無用に願い度い。」
なるほど、と谷垣は頷いた。「どうぞお気をつけて。では、おやすみなさい。」軽く会釈すると、いなくなった。なぜ出てきたのか、よく分からない。
どーん、どーん、かっかっか。
どーん、どーん、かっかっか。
暫くしてひっそりと静まり返った首相公邸に到着した。遠くで犬が鳴いている。
「おのおのがた、ぬかるでないぞ」大石内蔵助になりきった大島が重々しく隊士に告げる。「おう」全員が声を上げたかと思うと、あっと云う間に塀をよじ登り、門戸をこじ開けて屋敷に入る。
ただならぬ気配を察し、ばらばらと奥から飛び出てきた野田の家来たち。隊士が襲い掛かるや、マルチ 山岡のクビを撥ねる。ちびっこ安住の脳天を叩き割る。スパイ蓮舫 の鼻をへし折る。飛び散る血しぶきが辺りを真っ赤に染める。こうなると他の閣僚連中は浮き足立つ。
「俺は素人だ」そう云うと、一川は戦わずして逃げだした。「モナ~」と叫びながら細野があとを追う。玄葉もタンク ローリー を探すふりをしつつ裏口から消えた。
ぽつんと残された寝巻き姿の野田ひとり。庭に引きずり出して隊士一同で囲むと、がたがたと震えて命乞いをはじめた。「ゆゆゆ許してください。自民党 さんに協力するって云ってるじゃありませんか」
「ええい、だまらっしゃい」大島が野田を睨みつける。
「何が協力だ。あなたは逃げているだけではないか。」
野田が上目遣いでおどおど語る。
「あたしだって、もともと保守なんです。靖国参拝 だって賛成してるし・・・」
「ふざけるな!」と大島が一喝した。「あなたは保守ではない。歴史や伝統に根ざした国家観もなければ正義感もない。その時々の空気を読み、大衆ウケを狙っているだけだ」
さらに大島は続けた。
「首相になったところで、右顧左眄するばかりではないか。何の信念もなき人物に国政は任せられぬ。覚悟致せ」
そう云うと、太刀を引き抜いた。白刃が月光にぎらりと光る。
「うわあああ」腰が抜けて立ち上がれぬ野田は、恐怖のあまり湯気を立てて失禁した。息も絶え絶えな様子で大島に懇願する。
「ひひ、ひとつだけ教えてください。赤穂浪士の討ち入りと云えば年の瀬と決まっている。歌舞伎だって年末公演の出しものだ。なぜ、この時期に皆さん、なぜそんな格好で・・・」
大島はかぶりを振った。瞳には大粒の涙が宿る。
「政権与党の代表にありながら、そんなことも分からぬのか。」
野田は哀しそうに下を向く。
「よくお聞きなさい」と大島。
「国政の中心たる首相が、ぐらぐらしていたらどうなるか!」
野田が、あっと叫んだ。「中心ぐらだ!」
単なる駄洒落かい。全員がひっくり返った。