身体を捧げるハガネの首領外交。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【朝鮮半島ウオッチ】

金正日総書記「身体を捧げるハガネの首領外交」のウラ側




金正日総書記が訪露しメドベージェフ・ロシア大統領と会談、帰路は中国に立ち寄る友邦外交を展開した。北朝鮮メディアは「祖国が生きるか死ぬかの重要な時期に、運命の守護の道に自らの身体をとまどいもなくささげる鋼(はがね)の首領さま」などとその活動ぶりをリアルタイムで報道する異例の態勢を取った。総書記の指導力や外交成果による経済向上への期待を強調して、体制内の不満を抑えようとの宣伝作戦のようだが、かえって北朝鮮の国内不安要素が裏付けられている。

                                   (久保田るり子)


ロシア外交に実妹、金敬姫氏の影

 

 9年ぶりの金総書記の訪露は6月の予定が一度中止されたあと、ようやく実現した。準備に一役買ったのは金総書記の実妹、金敬姫氏(大将、党軽工業部長)で、訪露団のなかで交渉を担当したのは金敬姫氏の夫、張成沢国防副委員長とみられている。

 金敬姫氏は昨年1年間に100回以上、金総書記の公式活動に随行していたが、今年は6月から約2カ月間、姿を消し、ロシアで目撃されていた。

 韓国筋などによると、金総書記の6月訪露計画は、ロシアが熱心な露-北朝鮮-韓国をつなぐガス・パイプライン計画に関して両国間の調整ができずに延期になった。北朝鮮側の要求が過大だったとされる。今回は朝露首脳会談で基本合意し、「北朝鮮が事業を支持することで一致した」(メドベージェフ氏)とされる。ロシア側によると建設プロジェクトを検討する3者委員会(ロシア、北朝鮮、韓国)の発足でも合意したという。
モスクワに長期滞在していた金敬姫氏はロシア側に食糧支援を要請したもようだ。ロシアは8月8日にラブロフ外相が「水害人道支援」として小麦粉5万トンの援助を表明した。

 支援の第1弾は、金総書記が訪露の途についた8月20日に行われた。ロシアが金総書記の顔を立てた形だ。支援の第2弾は、金総書記の訪露外交の成果として9月中に行われる見通しだ。


政権核心層にも広がる不満分子に「首領の指導力」を誇示

 

 5月の訪中で金総書記は約6000キロの行程をこなした。8月末の訪露と帰路の訪中では約7000キロを列車で走破した。ロシアでは極東最大のブレイ水力発電所、中国ではチチハルの酪農施設や大慶の都市計画展示館を訪問し、金総書記のこうした活動の様子は北朝鮮メディアにほとんどリアルタイムで報じられた。

 金総書記の場合、これまで外国の非公式訪問の場合は特に、身辺警護の意味からもメディア露出は行わなかったが、今回は異例の報道ぶりだった。自身だけでなく、夫人の金玉(キム・オク)女史が寄り添う姿、仕事をサポートする様子まで国内メディアに公開した。

 こうしたプロパガンダ(政治宣伝)戦術について分析筋は、「金総書記が外交・経済を管理しているというアピールだろう。国際社会へは対話路線の強調。また体制維持への金総書記の自信の表明、国内不満分子への引き締めなど、2012年の節目を前に、内外に強い指導力を示す必要があるのだろう」と述べる。

 2008年夏の健康不安以後、一定の回復をみせている金総書記の統治は比較的安定しているとみられているが、食糧難、経済難による国内の不満を解消するめどは立っておらず、「首領さまがここまで努力している」姿を人民にみせる必要があるというわけだ。

朝鮮中央放送は訪露に対する人民の反応を『自分の身体をささげるハガネの首領さま。われわれの願いは将軍さまの安寧』(8月26日)と報じた。


ロシアの狙い、日米韓の見方

 

 ロシアはポスト金正日をにらんでいる。2008年9月に資源外交に熱心な李明博大統領が訪露した際、韓国がシベリアの天然ガスを15年から30年間にわたり毎年750万トン輸入するという了解覚書(MOU)に韓国側と署名している。

 ロシアは滞って久しい北朝鮮の債務返済問題の解決や朝鮮半島への影響力、韓国を通じた天然ガスの太平洋ルートの確保を視野に入れている。

 韓国にとっては、朝鮮半島の陸路にパイプラインが敷設されれば輸送コストの大幅な削減となるが、現在の南北関係で北朝鮮ルートを使うことは安全保障上、まず考えられない。将来、朝鮮半島が劇的に変化した後の話である。朝露間で合意したという3者委員会だが、現在までのところ、韓国政府にロシア側から正式な提案はない。

 金総書記は訪露、訪中でメドベージェフ大統領と戴秉国国務委員に「6カ国協議への無条件の復帰を望んでいる」と述べた。しかし日米韓は、核・ミサイルの生産や実験中止、さらにウラン濃縮プログラムの査察などを求めており、「北朝鮮が変化したとは認められない」との認識だ。

 北朝鮮は、パイフラインで年間1億ドル(約76億円)に上る通過料を受け取ることをもくろんでいるが、その道ははるかに遠い。