【解答乱麻】元高校校長・一止羊大
国旗国歌を軽侮し、日本人としての誇りを削(そ)ぎ落とす教育が続くなかで、文部省(現文部科学省)は、平成元年に学習指導要領を改正し、各学校に国旗国歌の指導を義務づけた。しかし多くの学校現場では、教員が職務を果たさず、校長の指示命令にも耳を貸さず、国旗国歌の指導を拒否し続けてきた。大阪府でもその傾向が顕著だったことは、拙著『学校の先生が国を滅ぼす』で詳しく紹介した通りである。
大阪府は、6月3日の府議会でいわゆる「国歌起立条例」を可決、成立させた。これまでの大阪府の状況を考慮すると、遅きに失した感もなしとしないが、この度の条例化はまことに結構なことである。伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する意識の高揚、他国を尊重し国際社会の平和と発展に寄与する態度の涵養(かんよう)、職員の服務規律の厳格化などを盛り込んだ内容は極めて妥当なものである。
戦後わが国では、GHQ(連合国軍総司令部)による占領政策の呪縛から抜けきれず、「自虐史観」に基づいた教育が公然と行われてきた。日の丸・君が代を忌避する教員の跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)は、このような左傾化した教育行動の一環に位置づくものだ。
一部に「府教委は平成14年に国歌斉唱時に起立するよう文書通達を出しており、条例化は屋上屋を架すものだ」などと指摘する向きもあるようだが、これは左翼教職員の根強い確信犯的な行動を甘く見ているものだと言わなければならない。通達後約10年が経過しているが、起立斉唱を拒否する教員は今も後を絶たない。組織的な反対運動も依然として根強く、たとえば大阪府立高等学校教職員組合は、現在も日の丸・君が代反対のキャンペーンを臆面もなく展開している(拙著『反日教育の正体』参照)。
報道によると、日の丸・君が代に反対する人たちだけでなく日本弁護士連合会も、「思想・良心の自由を侵害し、憲法違反だ」と主張して、この度の「条例化」に反対しているとのことである。最近相次いで出された最高裁判所の判決でも示されたように、このような主張に正当性がないことはもはや明白である。法令審査権を持つ最高裁判所が「憲法に違反せず」の判断をはっきりと示したからには、それに従うのが法治国家の常識というものではないか。
「歌わない自由を奪うものだ」などと主張して「条例化」を批判する人たちもいるようだが、その根底には、学習指導要領や教員の職務について間違った認識があるように思われる。学習指導要領は、教育の機会均等を実質的に保障するために設けられた国の教育課程基準であり、どの学校も必ず守るべき規範である。入学式などで起立して国歌を斉唱するのは、個人の信条がどうであれ、子供たちに国歌を指導する立場にある教員の当然の職務である。まして、法令等に従い校長の職務上の命令に忠実に従って職務を遂行することが法律で義務づけられている教育公務員に、自己の信条を理由にして職務を拒否する自由などありはしない。「歌わない自由」などというものは初めから存在しないのである。
どうしても自己の信条を貫き通して起立斉唱を拒否するのであれば、教員を辞めるのが道理である。橋下徹知事が「国旗国歌を否定するなら公務員を辞めればいい」と言ったのは、当然過ぎることである。
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【プロフィル】一止羊大
いちとめ・よしひろ (ペンネーム)大阪府の公立高校長など歴任。著書に『学校の先生が国を滅ぼす』『反日教育の正体』。