from Editor
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110813/dst11081307340003-n1.htm
月曜の朝だった。月も改まり、職場へ学校へみな急いでいただろう。その日、MSN産経ニュースの当番編集長としてニュースをウオッチしていたが、電車が止まっているという一報が入り、ほどなく社会部から短い記事が届いた。
『1日午前7時ごろ、JR京浜東北線鶴見-川崎駅間を走行中の磯子発大宮行き普通電車(10両編成)の車掌から、「床下から猫の鳴き声が聞こえた」と運行指令室に連絡があった。蒲田駅で駅員が車両を調べたところ、1号車の車両床下の機器の上に子猫がいるのを発見し、保護した。猫は黒色で、体長約20センチ。けがはないという。JR東日本によると、電車は蒲田駅に22分間停車し、午前7時半ごろに運転を再開。京浜東北線は上下線15本に最大22分の遅れが生じ、約2万3千人に影響した』。迷惑を被った方の気持ちを思いつつ、「子猫が電車止めちゃった」という見出しをつけてアップした。
この日は「米国の債務問題合意」や「鬱陵(ウルルン)島視察、自民3議員入国拒否」など1面トップ級がめじろ押し。ところが「子猫」の記事のツイートがじわじわ伸びて1400件を突破、総合ランキングも一時3位にまで上がった。
ツイートをのぞくと「子猫なら仕方ない」「許そう」と、電車の遅れでささくれ立っていた気持ちが「癒やされた」というつぶやきが大半だった。
翌2日付の産経新聞は「元気な様子で、出されたキャットフードを完食したという。(中略)生後約3カ月、最高速度90キロの京浜東北線で、2駅以上の“冒険旅行”に耐え抜いたとみられる」と追加取材を加え、社会面右下の通称「オモシロ箱」で伝えた。
「子猫はどうなったか知りたい」とのツイートに後押しされ、帰路、蒲田駅を訪ねてみた。「川崎でお客さんが気づいたんです。それで(次駅の)蒲田駅で3人の駅員が車両点検をしたらいたのです。動物がいたから遅れたという放送はできませんでしたが…。お客さんにはご迷惑をおかけしました」。そして「子猫は動物愛護施設に渡しました」と丁寧に教えてくれた。
「居座り」「やらせ」など、日々不愉快なニュースが大きく扱われる。しかし、枕草子に「ちひさきものはみなうつくし」とあったけれど、古来、日本人は慈しみの心が厚い。そんな読者のみなさんが、小さな命のほっこりしたニュースを掘り起こしてくれた。
(副編集長 黒沢通)
