【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110803/chn11080303090000-n1.htm
中国浙江省で起こった高速鉄道事故は、単なる鉄道事故を超えて私たちを慄然とさせた。高架からぶら下がった車両の惨憺(さんたん)たる映像は世界中を駆け巡り、その後、当局が行った慌ただしい車両隠しやその再発掘作業は、急成長を遂げる中国の殺伐とした内実を暴露してしまった。
すでに、中国経済は危険なバブル状態にあると指摘されて久しい。バブルとは、心理的に見れば、永遠に自国の技術革新が継続し、好景気が続くという国民の幻想のことだ。しかし、今回の事故によって、中国の技術革新が借り物であるだけでなく、その制御すらもできなかったという幻滅が、静かに深く中国国民のなかに浸透していく可能性がある。
中国の不動産バブルは繰り返し指摘されてきたが、最近はこのバブルのために地方債務が巨大化し、景気が減速すれば不良債権化して金融システムを破壊するとの警告も、内外から発せられていた。しかも、この議論に米国金融危機の到来時期を的中させたニューヨーク大学教授ヌリエル・ルービニも加わったことから、俄然(がぜん)、具体性を帯びてきた。
中国における投資は、次第にその効果を減少させる「投資の壁」に突き当たると予想されている。ルービニによれば、交通インフラや工場への投資がすでに対GDP(国内総生産)比で50%を超えている中国は、過剰投資と不良債権の問題から逃れられず、「壁」に当たるのは2013年から2015年の間だという。
私がいいたいのは、このバブル崩壊で中国共産党が崩壊するとか、いまの中国全体が分裂してしまうという話ではない。ここで指摘したいのは、これからの中国経済の減速は日本経済への大きな打撃になるだけでなく、日本が取り組まねばならない復興においても、海外への輸出に依存する道が、さらに困難になりつつあるという苦い現実である。
しかも、今や明らかなように米国も財政問題をめぐって国が二分し、一時は債務不履行の危険すら予想されていた。今回の危機はいちおう回避される見込みとなったが、失業率が9%を超えるこの国は、もはや海外からの輸入を寛容に受け入れることはできない。米国の輸出・雇用推進策として採用されたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に、復興を加速する対米輸出増加を期待することなどナンセンスなのである。
そもそも、いま私たちが直面している東日本大震災からの復興という課題は東北の太平洋沿岸地域を中心とする被災地に関するもののはずだ。それが東電叩(たた)きに翻弄されることによって方向が狂わされ、危機を乗り切るには太陽光発電を展開すべきだとか、果ては電力の発送分離を断行しろなどという被災地にはほとんど関係のない便乗プランが「復興策」として唱えられている。そして今や、これまで財界や多くの経済学者が主張してきた輸出増加策も、すでに述べたような国際経済環境の急変で危うくなりつつあるのだ。
延命だけが目的化した今の菅直人政権に、期待できることなど何もない。菅政権ができる復興への貢献は、一日も早く崩壊してくれることだけだ。とはいえ、その日の来るのを、手をこまねいて待つわけにはいかない。私たちは自国内で可能な復興策を着実に構想しておく必要があるだろう。
(ひがしたに さとし)
