【金曜討論】パンダ外交 中川志郎氏、ペマ・ギャルポ氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110729/plc11072907320008-n1.htm
夏休みに入り、東京・上野動物園は連日、かわいいパンダを一目見ようと集まった家族連れでにぎわっている。今年2月に中国から来日し、大きな話題となったパンダ2頭だが、東京都が中国に年間約7800万円を支払っていることには疑問の声も上がる。パンダは「友好の使者」としての役割を果たせているのか。桐蔭横浜大学法学部教授のペマ・ギャルポ氏と、日本動物愛護協会理事長で元上野動物園園長の中川志郎氏に意見を聞いた。
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中川志郎氏
■日中を結びつけた“功労者”
--昭和47年にはパンダが初めて来日し、大ブームとなった
「日本と中国が国交を回復した直後、両国が再び付き合いを始める印として、パンダが贈られることが決まった。当時、パンダは地球上に千頭しかいない、とされており、一般の人たちはほとんど、パンダという名の動物を知らなかった。一体、どんな生き物なのか、日本中で関心が高まり、多くの新聞や雑誌などで取り上げられたことで、そのかわいさと愛嬌(あいきょう)のある仕草に国民は圧倒された」
--来日したパンダの飼育に携わられた
「私は1969(昭和44)年にロンドン動物園でパンダの飼育実習にかかわった。パンダが日本に来ると決まってからは、受け入れチームが作られ、準備を進めた。国民の期待は大きかったが、日中の国交回復を快く思わない者もおり、飼育係は親善大使のパンダに傷が付くようなことがあってはいけないと心配をしたものだ」
○外交的な意味ある
--中国がパンダを外交に利用しているとの指摘もある
「中国が外交利用を意図したのかは不明だが、国家元首が他国を訪れた記念に、動物が贈られることはよくある。『一頭のパンダは十人の外交官に勝る』という言葉があったが、外交的な意味でみれば、パンダを贈られたことで、日本人の中国人に対するイメージは変わった。戦争を経て離れていた日本人と中国人の心を結びつけた最大の“功労者”がパンダだったのではないか」
--パンダを借りる際に支払うお金が話題になっている
「一般にレンタル料と呼ばれているものは、実際は、パンダの繁殖生態研究のために支払われるお金だ。パンダはワシントン条約で保護されている動物であり、(生息地域から)移動させてはいけない。政治的に寄贈したり、贈呈したり、無料で貸すことには厳しい制約がある。だが、繁殖のための研究をする、あるいは、動物学的な研究をする目的で移動させる場合は、その制約が外れる。中国は『研究のために使ってください』との名目で、他国にパンダを貸し出している」
--なぜ、お金が動くのか
「他国に貸し出すことで、パンダは繁殖の機会を奪われる。こうした状況をカバーするため、パンダを借りる国は、パンダの人工授精、共同研究など、研究費の一部を負担している」
○保護のための費用
--多額の料金を支払うことには批判もある
「保護繁殖のための費用であり、損得感情で見るべきではない。パンダの保護に協力したいと思う国は積極的に資金を出してもいい」(萩原万貴枝)
ペマ・ギャルポ氏
■国家ビジョン達成の道具
●日本の片思い
--パンダ2頭が来日した
「『平和の使者』『友好、親善の大使』のように言われるが、日本は中国に年間約7800万円を支払う。友情はお金で買えるものではない。両国が仲良く付き合っていくことは大切だが、いまは両国の関係は対等とはいえず、どちらかというと日本の片思いになっている。その思いは、中国に魅了されているからではなく、作り上げられた歴史への罪悪感から、一生懸命尽くしているといった印象だ」
「もう一つ問題なのは、パンダが雲南や四川といったチベット人領域に生息している動物であることだ。中国が費用を取って貸し出せば、盗品を売っているのと同じだ。売った側にも責任はあるが、盗品と知りながら買えば、犯罪であり、道徳に反する」
--パンダ人気に沸いた昭和47年の日中国交正常化当時と今では、状況は激変している
「当時、大手新聞は、中国の十数カ所に油田が出ると報じた。結果的に期待したものではなかったが、中国と国交を結べば、油が手に入るといわれていた時代だった。また、経済的に遅れていた中国をどうにかしなくてはいけないという仏心が日本にはあった。だが、今は、中国は日本を追い越した。日本のリーダーたちが考えなければいけないのは、“強い中国”は日本にとっていいのか、悪いのか、ということだ。日本がどんなに(パンダを通じて)善意を尽くそうと思っても、中国は必ずしもそう考えてはいない」
--中国が意図するものとは
「中国は軍事増強を進め、国内においては、武装警察や公安の人数を増やして政府批判や反体制勢力を徹底的に鎮圧している。中国は、アジアの超大国になるという野望と戦略を持って、前進中だ。達成するためには、ソフトパワーもハードパワーも上手に使いこなす。例えば、尖閣諸島に侵入するような挑発行為をして相手を試す一方で、パンダ外交というような友好も演出する。日本は中国人民を苦しめている政権に対して『友好、友好』と言って、すべてのことに見て見ぬふりを決め込んでいるが、パンダは中国の国家ビジョンを達成するための道具の一つという現実を直視すべきだ」
●熱はすぐ冷める
--パンダの来日で、動物園は入場者数の増加が見込めるのでは
「今年の夏は、東日本大震災による節電の影響で、冷房の使用をひかえる家庭が、外出の機会を増やすかもしれない。動物園に足を延ばす人も多いだろう。(パンダという)新しいもの見たさで、ある程度の経済効果は見込めるだろうが、私はすぐに冷めるとみている」(三宅陽子)
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【プロフィル】中川志郎
なかがわ・しろう 日本動物愛護協会理事長。1930(昭和5)年、茨城県生まれ。80歳。52年、上野動物園に獣医師として勤務。72年にパンダの飼育プロジェクトのリーダーを務める。その後、多摩動物公園園長、上野動物園園長を歴任。著書は「パンダは舐めて子を育てる」など。
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【プロフィル】ペマ・ギャルポ
桐蔭横浜大学法学部教授。1953(昭和28)年、チベット生まれ。58歳。65年に来日し、80年にダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表などを経て、テレビコメンテーターとしても活躍している。著書に「中国が隠し続けるチベットの真実」など。
中国のパンダ外交「友好の使者」役割にNO 82%
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110728/trd11072821100029-n1.htm
【eアンケート】
「パンダ外交」について、26日までに2022人(男性1485人、女性537人)から回答がありました=表参照。
「パンダは『友好の使者』としての役割を果たせているか」については
「NO」が82%、
「パンダは日本に必要か」という設問にも83%が「必要ない」と答えました。
「パンダの外交利用に賛成か」については「反対」とする意見が91%に達しました。
(1)パンダは「友好の使者」としての役割を果たせているか
18%←YES NO→82%
(2)パンダは日本に必要か
17%←YES NO→83%
(3)パンダの外交利用に賛成か
9%←YES NO→91%
単純にかわいい存在
東京・女性会社員(41)「パンダが友好の使者という認識はまったくなく、単純にかわいくて大好き。カンカン・ランラン世代としては、永遠のアイドルだ」
奈良・男性公務員(32)「いいとか悪いとかではなく、これは純粋にビジネスの話なのではないか。誰が『友好』なんて言い出したのだろう」
東京・男性団体職員(31)「外交利用とか金額のことばかり取り沙汰されるが、希少種の保存のための重要な取り組み。トキの保護にも多額の税金が使われているはずだが、それを批判する人はほとんどいないではないか」
和歌山・男性自営業(39)「『上野動物園=パンダ』というイメージがつきすぎて、パンダなき後の穴を埋められなかった上野動物園がどうしても獲得したかっただけで、パンダ外交を論ずるには適しない事例なのではないだろうか」
東京・男性会社員(46)「パンダの外交利用については、単純に割り切れない問題。東京都が払っているレンタル料だって、たとえペイできなくても、実物のパンダを見た子供たちの情操教育に役立っているのなら、それで十分だと思う」
お金払って友好?
大阪・男性公務員(42)「年間7800万円も支払って、『友好の使者』とは、どこまで日本人はお気楽な民族なのか」
愛知・男性会社員(42)「1970年代の日中国交正常化とは時代が違う。今、パンダを中国との友好の証などと考える人はいない。希少な動物なら、現地で保護し、繁殖させればいい。どんな生き物も、生息地域から離して飼育することは良いこととは思えない」
千葉・専業主婦(58)「年間7800万円を払ってまで見るものだろうか。高額な費用を支払って、一体どこが『友好』なのだろう。『友好』なら無料であるべきだ」
神奈川・男性自営業(71)「日本がいくら『親中外交』をやっても、絶対に中国は『親日政策』などはしない。日本はもっと『現実外交』をすべきではないか。パンダに釣られて、弱みを見せてはいけない」
大阪・男性自営業(57)「パンダの生息地域はチベット族の居住域に重なっているのではないか。お金を払うなら、(チベット仏教最高指導者の)ダライ・ラマに払うのが正当なように思う」
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■中国のパンダ外交
中国は、世界各国に「友好の証」として、パンダを贈ってきました。日本へは昭和47年に国交正常化を記念してカンカンとランランが贈られ、戦争で悪化した両国の関係改善に大きな役割を果たしたといわれます。今年2月にも、2頭が来日。しかし、借り受けるに当たっては、年間約7800万円を支払うことへの反発の声も上がっています。