【書評】
『ブルーインパルス 大空を駆けるサムライたち』
武田頼政著
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110724/bks11072407330010-n1.htm
友情、事故…肉薄の歴史
青空を駆け抜ける航空自衛隊のアクロバットチーム・ブルーインパルス(BI)。その「青い衝撃」は日本国民の過半が知るビッグネームだが、タイトルから本書を航空ファン向けの本だと思うと、よい意味で予想を裏切られる。
著者の武田頼政氏は故青木日出雄氏創刊の『航空ジャーナル』の元編集部員。T2高等練習機という国産超音速機とともに歴史を刻んだBI、そして航空自衛隊最高のパイロット集団・飛行教導隊を、パイロットを通して熟知する数少ない民間人の一人だ。
武田氏は、その兄弟的とも言うべきパイロットたちとの親交と信頼関係から知りえた事実について、主に国防上の配慮から四半世紀にわたり封印してきたが、航空自衛隊の歴史を広く国民に知らせるという意図のもと、関係者の承諾を得て、大部分を実名で公表することに踏み切った。
金切り声を上げるジェットエンジンのタービン音、鼻をつくジェット燃料。愛憎半ばする空の男たちの友情。聞こえてくる絞り出すような肉声。欠陥を疑わせる重大事故の続発。血と肉片が焦げる臭いも行間から漂ってくる。
圧巻はBIのT2が浜松で墜落した事故から後の6章。編隊長命令に忠実な高嶋一尉は身をていして民間の犠牲を避けようとしたのか? 事故原因を握る0・9秒のブレイクの遅れの意味を理解しようと、アクロバット飛行に同乗し、パイロットでも音(ね)を上げるG(重力加速度)に耐え抜いた杉本検事。2度にわたる飛行教導隊T2の主翼破断事故の原因究明の過程では、福島第1原発事故で当局者から繰り返された「想定外」を思わせる言葉が開発サイドから出て、戦友を失ったパイロットたちの心をかきむしる。
民間の評価とは異なる航空自衛隊内でのBIの位置づけと戦闘機部隊との関係にも、読者は先入観を覆され、驚かずにはいられないだろう。
久しぶりに本物のノンフィクションと出合った思いがするが、東京五輪開会式でのBIデビューから説き起こし、BIと飛行教導隊、救難航空隊を通して描かれた航空自衛隊史としても優れた作品だ。(文芸春秋・1800円)
評・小川和久(軍事アナリスト)
『ブルーインパルス 大空を駆けるサムライたち』