【from Editor】
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110722/trd11072207280005-n1.htm
東日本大震災から流れた月日を「もう4カ月」ととらえるか、「まだ4カ月」ととらえるか。
被災地の写真は発生当初の雪が舞う光景から雑草が茂る真夏の景色に変わった。自宅で3時間近い計画停電を経験したとき、暖房器具が使えず、体が冷えきったのを覚えている。それが今は計画停電発動時の熱中症急増の危機が唱えられる猛暑が続いている。
季節の移り変わりだけみれば、間違いなく「もう4カ月」だ。付言すれば、そのさい、なお10万人近くが避難生活を送る事実に「もう4カ月もたっているのに、こんな状況なのか」という復旧遅れへの憤りが込められる場合が多い。
一方で視界360度すべて瓦礫(がれき)という町に立ち、どこまで車を走らせても何もない風景が続く、津波が根こそぎにした土地を目の当たりにすると、「あの途方もない災害からまだ4カ月しかたっていないのだ」と思いしらされる。
「もう」と「まだ」という正反対の感覚が矛盾なく同居し、思いは絶えず両者の間を行き来しているのだ。
しかし、とも思う。結局、「もう」も「まだ」も震災を過去の出来事にしたうえでの感慨なのではないか。家を失い、家族を亡くし、避難生活を強いられる人たちにとって、震災は「4カ月前の出来事」でなく、生々しい「現在」に違いない。進まぬ復旧・復興にいらだち、焦り、格闘する関係者にとっても同様だろう。
もしかすると、被災地に寄り添って、といいながら、私たちは現場の切実感を共有できなくなっているのではないだろうか。
まもなく8月がやってくる。日本人にとっては鎮魂の月である。13日から16日のお盆は亡くなった人や先祖の霊を迎えて供養する期間。6日、9日広島、長崎の原爆忌、12日御巣鷹山の日航機墜落事故、15日終戦記念日と鎮魂の日が続く。今年はこれらに東日本大震災の月命日の11日が加わる。
鎮魂の季節の終わりを告げる盆踊りは、町内会や自治会など小さな単位で開かれることが多い。震災後、家族や地域、故郷などの絆を強めたいと思う人が増えたといわれるが、「自らが今在る場所」を意識する格好の機会になる。
そう、今年は特別な8月なのだ。多くの人が「もう」と「まだ」の間を揺れる振り子と向かい合うだろう。そのとき、被災地とそこに生きる人々には「もう」でも「まだ」でもなく、「震災は生々しい今」であることを忘れずにいたい。
(編集長 小林毅)