【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110706/plc11070603150003-n1.htm
 
菅直人政権は、東日本大震災を原子力損害賠償法にある「異常に巨大な天災地変」には当たらないとして、事実上の東京電力解体を進めつつあるが、さらに、電力の送電と発電の完全分離や地域独占の廃止についても意欲的らしい。
 しかし、すでに本欄で指摘したように、東電解体は原子力損害賠償法違反であり、ましてや、送発分離案や地域独占廃止案などは、悪い冗談としかいいようがない。これらの電力改革案は、電力の送発が分離されていないからマグニチュード9・0の大地震が起こり、地域独占だったから津波が非常用電源を破壊したと言っているに等しいからである。
 こんな倒錯的な議論が登場してくる背後には、いまの混乱に乗じて以前挫折した自己プラン実現を画策し、あるいは、新たに生まれる権益を獲得しようとする「火事場泥棒」のような行為が見え隠れしている。
 先日、ある経済産業省キャリア官僚が退職打診を受けたが、この官僚が東電についての「改革案」を提示していたというので、一部のメディアは殉教者でもあるかのように持ちあげている。しかし、この人物がバラまいたいわゆる「Kペーパー」は菅政権の原発事故賠償スキームが原子力損害賠償法に違反していることを指摘しつつ、だからこそ、ただちに別の法律を作って東電を解体し、その勢いで電力の完全自由化を推進すべきだという内容のものだった。
 事故が起こってから別の法律をつくるというのだから事後法の禁止を犯しているだけでなく、この「Kペーパー」は、とてもエリートとは思えない品性の欠如した言葉でみちている。たとえば、「(東電は)原発事故が収束するまではお詫(わ)び広告の代わりに毎日社長が土下座会見をする」などという提案を読んで、このプランが国を憂うる心から生まれたと思う方がよほどおかしいだろう。
 東電叩(たた)きに便乗して菅政権は、幻想のような自然エネルギー化を推進しようとしているが、これもまず東電を解体してしまうことが前提となっている。この分野でも新しいヒーローが何人か誕生しつつあるが、その陰で何が起こりつつあるのかにも注目しなければならない。
 違法なビジネスが暴露されて破綻した米国のエネルギー取引会社エンロンが、絶頂期にあったとき採用した手法は「アンバンドリング」と呼ばれた。それまでの業界をバラバラにするという意味だが、具体的には、政権と親密になって電力の送発分離や公益企業の解体を推進させるというものだった。その結果生まれてくる新しい市場やインフラストラクチャーをわがものとして、自らが新しい独占者となるわけである。
 日本でも東電の解体によって同社の巨大なインフラが新しい利用者の前に差し出され、送発分離が行われれば新しい市場が生まれるだろう。しかし、電力の送発分離を実施した米国やドイツの例では、むしろ電力供給は不安定になり、電力価格は高騰し、地域独占も逆に進んだ。
 そしてまた、東電の解体によって新しいビジネスの対象となるのは電力のインフラだけではない。同社が保有している壮大な光ファイバー網が、すでにおいしい投資対象インフラとして垂涎(すいぜん)の的になっていることも、日本国民は見逃してはならないのである。
                                     (ひがしたに さとし)