【風を読む】論説副委員長・西田令一
今の米国内の気分や思いを鏡に映し出したような。オバマ米大統領が22日にアフガニスタン駐留米軍削減を発表した国民向け演説を形容すれば、こうなろうか。
米国は、2001年の米中枢同時テロを実行した国際テロ組織アルカーイダと、支配するアフガンでそれを庇護(ひご)したイスラム原理主義勢力タリバンを討伐、同国を民主化し安定化させる戦いを直後から続け、現在も約10万の兵力を投入する。
大統領は手始めに、来夏までに自ら増派した分の3万3千(今年内に1万)の撤兵を表明、最大の標的とした組織の頭目ウサマ・ビンラーディン容疑者を5月の急襲作戦で仕留めた「勝利」とアルカーイダの敗走を、最大の理由に挙げた。次に、タリバンにも「甚大な損傷を与えた」とし、治安維持、経済再建は「アフガン政府の責任」と述べた。
第3に、03年からのイラク戦争で4500人近く、アフガンでも1500人余の戦死者を数え、この10年間の戦費も1兆ドル(80兆円)と嵩(かさ)んでおり、「国内で国家建設に集中すべきときだ」と訴えた。戦いの高い代償と経済不振を考慮し、戦果を口実に縮小へ舵(かじ)を切ったのだ。
米国内には現在、初期の超党派的「テロとの戦い」支持も、民主化普及などを大義に武力介入を是としたイラク戦争後の保守の総意もない。同容疑者殺害を機に過半数が早期アフガン撤兵を求めだし、多くが9%台の高失業率を案じている。
大統領は、容疑者潜伏で鮮明になったパキスタンのアルカーイダ拠点化への対処も言明した。小規模のアフガン駐留米軍が隣国でのテロ掃討に比重を移す可能性ありだ。
この10年は、中国が台頭して海洋進出攻勢をかけた時期でもあった。アジアの海「まさに荒れなんとす」だ。大方のイラク駐留部隊も今年末で撤退すれば、中国に歯止めをかけるアジア・太平洋態勢を再構築できる余裕も米軍に生まれよう。
演説は、米安全保障戦略の一大転換点を画するかもしれない。