自民党 本部に到着すると、幹部が居並ぶ会議室に通された。男は勧められた席に着こうともせず、壁を背にして立ったまま、ぶっきらぼうに切り出した。「用件を聞かせてもらおうか」
谷垣総裁が重い口を開く。
「ご存知のとおり、菅総理は会期延長 で延命を図りました。これでは国会が空転するばかり。復旧復興もまったく進みません。」
石原幹事長 があとを引き取る。
「われわれが与党なら、もっと多くの人を救えた筈です。原発事故だって早期に収拾出来たでしょう。マスコミが闇雲に政権交代を唱えたとは云え、2年前の大敗が残念でなりません・・・」
2年前と聞き、男は不快な様子で石原を遮った。
「だからって、菅を狙えってのも、随分乱暴な話じゃあねえか」
意外にも、べらんめえ調である。
石破政調会長が云う。
「ええ、まあ、確かに~、ま、乱暴と~、云うような見方も~、え、ま、否定は~できない。かなあ」首をかしげる。
間延びした話し方に苛立った谷垣が、石破を手で制した。
「こんなことは誰にでも頼めるワケではありません。狙撃のお力を借りたいのです。」男に頭を下げた。
「わかった。引き受けようじゃあねえか。」頷く男。
「但しな、」と続けた。「民主党 が黙ってねえだろう。」
「いや、そこはご心配なく」と答えたのは大島副総裁だった。
「菅総理の始末を依頼してきたのは、民主党 の執行部です。そのうえ、仙谷氏など、いっそ、ついでに小沢も始末して欲しいと」
ここまで聞くと、男は無言で立ち上がり、サイレン サー付きのM16を小脇に抱え、無言で官邸に向かった。
官邸に着くと守衛が満面の笑みをたたえて最敬礼した。「お久しぶりでございます。」目には涙を浮かべている。
男の人望は厚い。頼みもせぬのに、警備員が応接室まで案内してくれた。
仰天したのは菅であった。男の自動小銃を見ると、ぎゃっと叫んで椅子から転げ落ち、慌てて土下座して命乞いをはじめた。
「お、お、お願いです。ゆゆ、許してください。こここ、殺さないでください。」声が震えている。恐怖のあまり失禁した。
「わわわ、悪うございました。辞めます。お遍路の続きもしなきゃいけないし。いつまで居座ったって、目処なんぞつくもんじゃない。なにしろ、あたしが無能なんですから」と、涙声で語る。本人も事情はよく分かっているらしい。
「再生エネルギー法なんて、あれ半分冗談です。ちょっと云ってみただけです。悪いのは孫です。」他人のせいにした。ここまで話すと、菅はわっと泣き崩れた。
男は優しい声をかける。「ま、首相ってのは大変な仕事さ。」
このひと言がさらに菅を泣かせた。「おおお、おありがとうごぜえま~す」また、土下座する。
と、ここで菅はふっと顔を上げた。「でも、いきなり首相がいなくなるのも何ですよね。いや、延命ってワケではないんですが。その責任とか何たらかんたら」
男は菅の肩に手をかけた。
「心配するな」そして、こう云った。
「あとは俺がやる」
麻生政権の復活であった。