【主張】スパコン世界一
東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故で産業競争力低下が懸念されるなかで、日本の科学技術が世界トップの力を示した。
理化学研究所と富士通が開発中の次世代スーパーコンピューター「京(けい)」が、世界のスパコン性能ランキングで第1位になったのだ。
京は宮城、福島両県の企業からも部品を供給されている。逆境下で世界一を達成した開発チームをたたえるとともに、「復興の原動力」となることも期待したい。
スパコンは現代の科学技術を支える基幹技術であり、その性能は多様な産業分野の国際競争力に直結する。京は平成18年に、国の総合科学技術会議で「国家基幹技術」の一つに指定された。現在はまだ開発の途中段階だが、毎秒8162兆回の計算を達成した。来年度の完成時には、その名の通り毎秒1京回(1兆の1万倍)の計算速度が実現する。
米国や中国との国際競争は熾烈(しれつ)で、世界一は長く保持できそうもない見通しだという。だが、計算速度での世界一は本質的な目標ではない。「最速スパコンで何ができるか」で真価が問われる。
スパコンによる大規模シミュレーションは、理論、実験と並んで現代の科学技術の柱だ。新薬や治療技術の開発につながる生命科学、自動車や航空機の設計開発、地球や宇宙の成り立ちを探る天文物理など幅広い分野で新しい世界を切り開く可能性を秘めている。地震や津波の高精度シミュレーションによる防災への貢献も期待されよう。
京の性能を最大限に生かすプロジェクトの一つが「生命体統合シミュレーションソフト」だ。私たちの体では、分子、細胞、臓器が階層的に精妙な生命現象を営んでいる。京では、これまで不可能だった生命現象の丸ごとシミュレーションが可能になる。
残念だったのは、蓮舫行政刷新担当相の今回のコメントだ。一昨年秋の事業仕分けでの「2位じゃだめなのでしょうか」という自らの発言について、「メディアが勝手に短い部分を流したのでは」と反論した。
前後の文脈がどうであれ、「事実上の凍結」という仕分け結果を象徴する発言だったことは否定できない。科学技術のイノベーションには、高い志に支えられたNO・1の目標が不可欠だ。