ウソつきのジレンマ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【明日へのフォーカス】論説副委員長・高畑昭男




心理学の世界に「ウソつきのジレンマ」というのがあるそうだ。「ウソつきのパラドックス(矛盾)」ともいう。「私はウソつきである」と宣言したとき、これは果たしてウソか、真実かという命題である。

 「私」がウソつきならば、宣言は真実を語ったことになり、「ウソつき」ではなくなる。逆に、ウソつきでないなら宣言はウソをついたことになる。結局、メビウスの輪のように永遠の矛盾が繰り返される。

 その起源は古く、新約聖書にも登場するクレタ人の預言者が「クレタ人はいつもウソをつく」と語ったのが発端という。ひまつぶしには格好の頭の体操で、お酒も少々入れば効果はてきめんだ。

 さて、悩ましいのは「日本のジレンマ」である。鳩山由紀夫前首相が菅直人現首相を「ウソつき」「ペテン師」と呼んだ。今月初め、国会を騒がせた内閣不信任案問題だ。

 民主党の共同創設者で、互いに同志でもある前総理が現総理をウソつき呼ばわりしたのも異常だが、ジレンマの一因は鳩山氏にある。

 米軍普天間飛行場の「県外移設」発言で沖縄県民から「ウソつき」と非難された。「議員引退宣言」や母親からの巨額な「子ども手当」の全資料を「国会で公表する」と答弁したことなど、多くの約束を破ってきた。ご本人には弁明もあろうが、国民はウソだったとみている。

 だが、一方の菅氏も昨夏の参院選で「消費税10%上げ」と発言しては撤回し、退陣すると見せかけては辞めないなど、負けず劣らずだ。

 「ウソつき」と呼ばれる人が、他者を「ウソつき」と呼ぶとき、2人ともそうなのか。それとも、どちらかはたまには真実をいうのか?

 米大統領に「トラストミー(信用してほしい)」と約束して裏切った行為もペテンに等しかった。その鳩山氏が菅氏をペテン師呼ばわりするとき、いったいどちらがどれだけ信用できるのか。これらは「鳩・菅のジレンマ」である。

 その次に、「民主党のジレンマ」がある。首相の「早期退陣」の必要性を多くの幹部が叫びながら、誰もネコの首に鈴をつけようとしない。国難を救う情熱や勇気がないのかと思えば、一方で「ポスト菅」の有力候補なる人々が勝手に浮上する。

 どちらも深刻なジレンマだ。

 国民はいったい全体、どうすればいいのか。別の文脈で「バカ足すバカ足すバカは、やっぱりバカ」と言った連立与党の指導者がいた。

 バカとウソつきとペテン師では少しずつ意味が違うものの、政権のウソと真実とを見極めて、一刻も早く正常な政治を復活させなければ、日本国全体がダメになってしまう。

 「ウソつきのジレンマ」とは別だが、ギリシャ神話に「カサンドラのジレンマ」という悲話がある。

 トロイ王朝最後の王の娘、カサンドラ王女は、ひとめぼれしたアポロ神から未来を予知する能力を授けられた。だが、神の求愛を断ったために「誰も彼女の言葉を信用しない」という呪いをかけられた。

 彼女は「トロイの木馬」の計略を予知して、「ギリシャ軍が攻めてくる」と叫んだが、誰からも「ウソつき」呼ばわりされて信用されず、ついに国を滅ぼされてしまった。

 「日本のジレンマ」「民主党のジレンマ」を解決しなければ、日本も滅びの道へ向かう。カサンドラの能力がなくとも、それは誰の目にも明らかだろう。