「中山成彬オフィシャルブログ・立て直そう日本~この国を守る覚悟を~」 より。
先週、武者小路実篤の「新しき村」で有名な宮崎県の木城町にある九州電力小丸川揚水発電所を見学してきました。福島原発事故で、電力に関する関心が高まっている折でもあり、チャーターしたバス1台は満席でした。
この揚水発電所は平成4年から土質調査や環境影響調査を行って、平成11年から建設に着手、約2700億円の巨額を投じて建設されたものです。1号機から3号機はすでに稼動しており、最後の4号機がこの7月に発電を開始することになっています。4機合わせて最大出力120万キロワット、原発のほぼ1基分に相当するそうで、九州では最大の揚水発電所になります。
因みに、私が小学生の頃は宮崎県は電力の移出県でした。当時は水力発電が主体でしたが、その後の日本の経済発展に伴ない九州でも火力発電所が増設され、玄海と川内の原子力発電所も建設されました。水力発電だけの宮崎県は約6割を県外からの送電に頼っています。
宮崎県全体の電力需要量は140万キロワットですので、この揚水発電所はその8割に相当する規模です。揚水発電所は電力料金の安い夜間に下部ダムから上流ダムに揚水し、電力需要の多い昼間に発電する仕組みになっています。原発のように常時発電し続けるものではなく、電力の需給関係を見ながら補充的に必要な時に水を放流して発電します。指令がきて、5,6分で出力できる即応力があるという説明でした。
私はかって国内唯一の沖縄の本部半島にあるJP(ジェィ・パワー)の海水揚水発電所を視察したことがありました。どちらも山の上に貯水ダムを作り、山をくり抜いて地中に発電装置が備え付けてあります。小丸川揚水発電所は7月に完成すると、九電の職員は一人も常住せず、全て福岡の本社ビルで操作するのだそうです。まさに再生可能なエネルギーの典型です。
福島原発事故を契機に国際的にも原発政策の見直しが始まっています。ドイツは原発の全廃を決めました。イタリアも、一昨日行われた国民投票で、原発の再開はしない方が圧倒的多数でした。
日本国内の原発は全部で54基ありますが、点検で停止中の原発も多く現在は3分の1の17基しか稼動しておりません。再開を待っている原発も地元住民の了解が得にくい状況になっています。今、日本の原発の総電力に占めるシェアーは約30%で、世界でも3番目の高さです。
鳩山前総理は就任早々、国連で日本はCO2の発生を25%削減すると演説し国際公約になっています。しかし、そのためには原発のシェアーを50%に高めることが前提でしたが、菅総理の浜岡原発停止発言により、この公約は吹っ飛んでしまったようです。今や地球温暖化の議論は遠い世界の話になっています。
私は平成8年当時、自民党の商工部会長を勤めていましたが、京都で開かれたCOP3で、日本はCO2を6%削減すべしとする案を議長国だから呑めということに1人反対し続けたことを思い出します。そもそもCO2が地球温暖化の原因ではないという学説もありますが、それより、日本は既にCO2削減を世界に先駆けて努力しており、まさに「絞り切った雑巾を更に絞れというのか」というのが率直な気持でした。又、このCO2削減交渉の裏に、排出権取引という国際的な金儲けの策略を感じ取り、又日本は損をすると思ったからでした。今回の原発事故により、地球温暖化とCO2の関係がもう一度冷静に研究されることを期待しています。
原発は、地震多発国日本では建設しないに越したことはありません。しかし、石炭・石油という天然資源がまったく乏しい日本です。それに替わるエネルギー源をどこに求めるかが最大の課題です。私は文部科学大臣の時、「地上に小さな太陽を作る」という核融合エネルギーの実現を目指す「イーター(ITER)計画」を1歩前に進め、仏のカダラッシュに研究開発本部を置き、日本の六ケ所村に副本部を置くことを決めました。しかし、この「イーター計画」もうまくいっても、実用化には50年かかるという事でした。
太陽光発電、風力発電、地熱発電等々さまざまな再生可能な手段による電力供給が論じられていますが、いずれも現時点では供給量とコストに超えられない限界があります。ヨーロッパ大陸のように電力を輸入するわけにもいかない日本です。このまま推移して企業も家庭も節電に努めることになるのでしょうか。私が心配するのは、家庭では節電に協力しても、恒常的な電力不足を懸念して企業の海外移転が進むと、日本経済が縮小し、働く場が少なくなってくることです。そうでなくとも、長引くデフレの中で円高が続き、日本企業の国際競争力が低下して、興隆する新興国に追いつかれつつある昨今です。経済の原動力であるエネルギー、なかんづく電力の安定供給をいかに図っていくか、国民全体で考えるべき課題になっています。