【産経抄】6月15日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








「サラエボの銃声」から世界が「第一次大戦」に突入したのは1914(大正3)年7月末のことだ。「大戦」と化したのはドイツがロシア、フランス両国に宣戦布告してからである。東西の戦線に向け、兵を大動員することになる。

 ▼兵を送りこむにあたり、皇帝ヴィルヘルム2世がはいた有名な言葉がある。「落ち葉の季節までに諸君は帰国できる」。つまり晩秋までの3~4カ月で戦いは片づけられる。ドイツ国民は戦勝後、平和にクリスマスを迎えることができると言ったのだ。

 ▼皇帝の独断ではなかったのだろうが、ドイツにとって歴史的な「見通しの甘さ」となった。露仏の強い抵抗にあい、戦争は「落ち葉の季節」どころか4年後まで続いた。兵士たちは何度も塹壕(ざんごう)の中でクリスマスを迎えねばならなかった。皇帝もやがて退位を余儀なくされる。

 ▼こちら日本の菅直人首相の場合「甘い見通し」どころか懸案に何のメドも立てられないでいる。戦争に匹敵する国難である大震災からの復興は、がれきの処理さえまだ8月中が「目標」の段階だ。福島の原発事故の収束など東京電力任せと思えてしまう。

 ▼大震災への対応ばかりではない。日本の安全を左右する米軍普天間飛行場の移設はやっと自公政権下の案に戻ったものの、解決の見通しは立たない。太平洋地域での貿易自由化を進めるTPPへの参加問題も最初の威勢の良さはどこへやら、前途は不明だ。

 ▼始末が悪いことには、そうした懸案のメドが見えないことを、約束した自身の退陣を遅らせるのに利用しているように思える。国の将来を見通せないのなら、自らの進退についてぐらい明確にしてほしい。そうしないと国民に元気など出ない。