中国との覇権バトル激化
自動車用ナビなどで現代生活の欠かせない一部に成長したGPS(衛星利用測位システム)の次世代サービスをめぐる日米と中国の覇権争いが激化している。精度が飛躍的に高まる次世代型は軍事・民生両面のインフラ(社会基盤)として、より深く社会に組み込まれ、一国の安全保障をも左右する存在になる。だが宇宙進出の意欲を隠さない中国に対し、日本は戦略的な姿勢を打ち出せていない。(松尾理也)
現行のGPSは、米国防総省が運用する約30基の人工衛星が地球のほぼ全域をカバーし、約10メートルの誤差で地上の目標物の位置を測定できる。一方、次世代型では精度が誤差1メートルから数センチにまで上がり、地形や建物による障害にも強くなる。
だが次世代システムの構築には、測位機能補強用に追加衛星を複数打ち上げる必要がある。さらに補強用衛星の運用には地上局の設置も必要になるため、米国は独力で全世界に次世代衛星網を構築することを断念した。
その結果、ロシアの「グロナス」、欧州連合(EU)主導で構築中の「ガリレオ」などが存在するものの事実上、米が一極支配する現状から、地域大国が並立する多極型の構図へ変わることになった。
南北アメリカは米国が担当。欧州・アフリカは欧州の連合体が担当する。だが、アジアはすんなりといかない。順当ならば日本だが、急速に宇宙開発への野心をあらわにしている中国、インドが割って入ってきた。
インドは地域的に日本と住み分け可能だが、中国は東アジア、東南アジアでまともに競合する。
中国は2000年から順次、独自の測位衛星「北斗」の打ち上げを開始。さらに次世代型への意欲も表明し、20年ごろまでのアジア向けサービス開始を公表している。
日本では06年に独自の補強衛星網「準天頂衛星システム」を開発する基本方針が策定され、昨年9月、1号機が打ち上げられた。が、その後は東日本大震災以降の政治状況の流動化もあり、明確なシステム構築のめどを国として示せていない。
日本の宇宙開発政策に関わる政府筋は「次世代GPSは、米、英、フランス、中、露と5つの常任理事国が牛耳る国連安全保障理事会のような世界になる。日本は今、まさにそこに入れるかどうかの瀬戸際に立っている」と指摘している。
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■次世代測位システム
自動車、鉄道の運行管理や航空機の自動発着など人命に関わる業務への応用が可能になる。軍事面では、個人を標的にした巡航ミサイルの精密誘導も現実化する。こうした技術の根幹となるシステムを他国に委ねる危険は大きいが、アジアでは現時点で日本と中国、インド以外に衛星網構築に参入できる国家はなく、日本の優位を固定化できる数少ない分野といえる。
衛星測定・補強システムの現状