【湯浅博の世界読解】
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110608/asi11060813370001-n1.htm
東南アジア諸国がようやく、海軍力を見せつける中国にモノをいうようになった。これまでは、中国の武装艦が怖くて南シナ海の沿岸国が束になっても文句を言えなかった。
先頃、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、発言者の誰もが中国を意識した。ある国は直接に批判し、ある国はやんわりと牽制(けんせい)する。
「航行の自由」を取り上げれば、中国の南シナ海での悪辣(あくらつ)な振る舞いへの批判だった。「東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議」に賛意を表する国は、豪州、インドという中国の対抗勢力の結集に期待を示した。それは当然の報いである。
中国は南シナ海のほぼ8割を領海と主張し、威嚇のうえに発砲、拿捕(だほ)する。南シナ海をチベットや台湾なみに「核心的利益だ」と宣言し、逆らう者には問答無用の暴力をふるう。武力行使の垣根が低いのだ。
筋力をひけらかす中国に対抗できるのは、米国しかいない。「9・11」の米中枢同時テロ以来、久しく留守にしていた米国がアジアに戻ってきた。クリントン国務長官が昨年1月の演説で「アジア回帰」を宣言し、同年7月には中国が嫌う領有権争い解決への多国間交渉の支持を打ち出した。
ゲーツ国防長官も「南シナ海の航行の自由は国益」であるとして、中国流でいう“核心的利益”をいい始めた。米太平洋軍はこの指針を実際の運用に動き出しているから、沿岸国には心強いはずだ。
中国はこのアジア安保会議に、満を持して最高位の国防相を送り込んできた。昨年夏、ハノイで開催されたASEAN地域フォーラム(ARF)で、米国がASEAN諸国の後ろ盾になったために集中砲火を浴び、米国に外交的な敗北を喫したからだ。
だが、日ごろの振る舞いが悪ければ、いくら美辞麗句を重ねても同じことである。こわもての梁光烈国防相が「中国軍の近代化は自衛目的で、他国に脅威を与えない」と演説を終えると、すぐに、ベトナムがかみついた。
「南シナ海は全般的に安定との発言があったが、実は事件が多発している」
タイン国防相はベトナムの資源探査船の調査ケーブルが、中国監視船に切られたことを表明した。
フィリピンのガズミン国防相も続けて、スプラトリー(南沙諸島)周辺で「中国の建造物建設の動きがみられる」と文句を言った。2002年にASEANで署名した「南シナ海行動宣言」で新構造物の建設を自制するとした規定に反するとの批判だ。
米国は大東亜戦争で日本をたたいたように、歴史的にアジア太平洋の覇権国の台頭を許さない。ゲーツ長官が「100ドル賭けてもいい、5年後も(米軍のプレゼンスは)今と同じ状況にある」とくぎを刺したのもそうだろう。
国防長官の念押しに、会場は拍手と笑いに包まれたという。このとき、梁国防相の顔を見られなかったのは残念なことである。
中国の南シナ海での振る舞いは、尖閣諸島のある東シナ海でも同じである。日本はアジア各国に連帯し、中国の力任せの圧力を封じたい。(東京特派員)