【土・日曜日に書く】
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110605/plc11060502590005-n1.htm
論説委員・清湖口敏
甚だ不幸な偶然
例えば『日本沈没』(小松左京著)で、日本列島弧に巨大な地殻変動が起きていると米国の測地学会が発表した日付が、今回の東日本大震災の発生と同じ「3月11日」だったとか。また例えば日米同盟を弱体化させ、日本の国防に重大な影響を及ぼした鳩山由紀夫前首相の誕生日が「建国記念の日の2月11日」であるとか…。
私は決して詮索好きのタイプでもないから、ここに挙げたような全くの「偶然」に、ことさららしく何かの意味を探ろうなどという気は、さらさらない。
もちろん阪神と東日本の2つの大震災が、ともに自衛隊を疎んじる首相の在任時に起きたことも偶然だと信じている。もしこれらが不徳の政治に対する天命(天譴(てんけん))であったとするなら、至上神である天はそれこそ本居宣長が『直毘霊(なおびのみたま)』にいうように、「なんという天の心得違いか」(西郷信綱訳)といった話にもなろう。罰は無辜(むこ)の民にではなく、為政の側に下されねばならなかったはずだ。
ただ、今回の大震災が菅直人政権下、民主党政権下で起きたこと自体は偶然であったにせよ、その後の不適切な対応は“人災”の誹(そし)りを免れず、大震災は甚だ不幸な偶然だったと言わねばならない。
国防を誤った政権
民主党は野党時代から国防意識が欠如しており、それが今回の不幸につながる結果ともなった。寺田寅彦は『天災と国防』と題する論考で、「国家の安全を脅かす敵国に対する国防」と「一国の運命に影響する可能性の豊富な大天災に対する国防」の2つの「国防」を指摘したが、民主党政権がこれら「国防」を2つとも誤っていることは明白である。
前者の国防の誤りは、震災後すぐにも露見した。復興を急ぐべき大事な時期に、中露両国が日本の領域近くに戦闘機を飛ばすなど挑発的な行動をとり、ロシアの副首相は北方領土を訪問して不法占拠の固定化を一段と進めた。すべては、民主党政権によって空洞化した日米同盟などを見透かした上での行動だったに違いない。
民主党はこれまで、中国に「友愛」を示し、ご一行様よろしく大挙して中国詣でまでしたのではなかったか。その中国に今、日本は脅威を与え続けられている。震災支援の一方で強圧的な挙に出る中国には、米軍の「トモダチ作戦」とは根本的に異なる「ソレはソレ、コレはコレ」式の冷徹で狡猾(こうかつ)な論理、本居宣長の謂(いい)を援用するなら「漢意(からごころ)」が垣間見えている。民主党もそろそろ、そんな「中国流」に気づかねばならない。
民主党政権はまた、こともあろうに、前者の国防だけでなく後者の国防にも極めて重要な役割を担っている自衛隊を冷遇し、「暴力装置」(仙谷由人官房副長官)と辱めてはばからなかった。
しかし今回の震災復旧で菅政権は、「おのが身はかへりみずして人のためつくすぞ人のつとめなりける」(明治天皇御製)を地で行くような自衛隊の懸命の活動に助けられたのだった。被災地に「自衛隊ありがとう」の大きな声が広がったのも当然である。
陛下にも助けられ
助けられたといえば菅政権は、天皇陛下にも大いに助けられている。陛下が被災者にビデオメッセージを発し、東北地方まで出向いて被災者を励まされたことで、被災者だけでなく多くの国民が熱い涙を流し、「立ち上がろう」との勇気と希望に胸を膨らました。
本来なら政治責任者たる菅首相が国民に希望を与えねばならないところだが、首相は希望どころか失望を増幅させるばかりで、避難所を訪れても「もう帰るのですか」と反感を買う始末である。
そこで思い出したいのは民主党政権が、天皇陛下の国会開会のお言葉に注文をつけたり、中国閣僚との会見で陛下のご意思を勝手に忖度(そんたく)したりと、皇室軽視の傾向が強いことである。それにもかかわらず今、天皇・皇后両陛下はじめ皇族方に震災復興で助けられている。民主党は自衛隊の大切さとともに、皇室のありがたさについても認識を新たにすべきである。
そもそも総理大臣を首相、各省大臣を○○相と呼ぶのは、「相」の字に「たすける」の義があり、「君主を相(たす)ける大臣」の派生義があるからだ。右大臣、左大臣は中国で右丞相(しょうじょう)、左丞相と呼ばれた。日本では浄瑠璃「菅原伝授手習鑑」の主人公、菅丞相がよく知られる。今なら「菅大臣」といったところだろうが、この菅丞相とは、天皇を守らんと生きながら雷神になった菅原道真公で、とても偉い「菅さん」なのである。
一方、首相の「菅さん」はといえば、自らは誰をも助けられず、天皇陛下に助けを仰ぐばかりである。とても「首相」の名には値せず、辞意表明の上は一刻も早い辞任を-。
(せこぐち さとし)