厳重警戒続く内モンゴル
中国当局、民族意識の再燃警戒。
【北京=川越一】中国・内モンゴル自治区でモンゴル族遊牧民の事故死をきっかけに拡大した抗議デモについて、中国当局は31日も厳重な警戒態勢を継続し、新たな衝突を封じ込めた。同自治区にはモンゴル族が徹底弾圧された歴史があるだけに、当局はモンゴル族の民族意識が再燃し、チベット族やウイグル族の活動と結びつくことを警戒している様子がうかがえる。
在米の人権団体、南モンゴル人権情報センターなどによると、内モンゴル自治区の区都フフホト市中心部は警戒線が張られ、治安要員が数メートル間隔で配置されているという。5月30日には政府庁舎に向けてデモ隊が行進したが、治安部隊に阻まれ数十人が拘束されたという。31日には、封鎖された学校構内で、学生らが中国語で書かれた教科書を窓から投げ捨てるなどして抗議の意思を示したという。
デモの発端は5月中旬、炭鉱開発に反対していた遊牧民が事故死したこと。5月23日ごろから、死亡原因の究明やモンゴル族の人権尊重を求めるデモが発生、25日にはシリンホト市で数千人が政府庁舎を取り囲む騒ぎが起きた。
抗議行動の背景には、同自治区で強引に進められる石炭採掘によって、環境破壊が深刻化していることがある。道路が整備されていない中、一刻も早く石炭を東部に運び、多くの利益を挙げようとするトラック運転手が競うように暴走していることも、遊牧民の生活環境破壊を招き、不満が高まる一因になっている。
中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報は31日付で、今回の抗議行動は「民族対立による政治的なデモではない」とする社説を掲載したが、同自治区には民族対立が拡大しかねない過去の記憶が眠っている。
ロイター通信などによると、モンゴル族は1960年代~70年代にかけて、文化大革命の混沌(こんとん)の中で徹底的な弾圧を受けた。汎モンゴル国家の樹立を企てたとして数万人のモンゴル族が殺害されたり、投獄されるなどしたとみられている。
漢族の大量流入も進み、モンゴル族は同自治区の人口約2400万人のうち20%にも満たない“少数民族”に。その結果、ここ20年ほどは大規模な抗議行動は発生していなかった。
外務省の姜瑜報道官は31日の定例記者会見で、「民衆の合理的な要求に対して、地方政府は積極的に対応するし、環境保護と経済発展をうまく処理するよう努力する」と強調、モンゴル族の懐柔に懸命だ。