復興の碁石、迷いばかり。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【古典個展】立命館大教授・加地伸行




「棋を挙(きあ)げて定まらず」ということばがある(『春秋左氏伝』襄公二十五年)。この「棋」は、将棋ではなくて囲碁の碁石のこと。石を握って、さてどこへ打てばよいのか分からず、迷っているという意味。

 これは、方針がないことの比喩で、菅直人政権の現状-3・11から3カ月近くになろうとしているのに、まだなんの大方針も出せないでいることそのものではないか。

 ならば、われわれ民間人が棋子(ぎし)(碁石)を打とう、ピタリと。

 まずはなによりも東北3県被災者の収入安定だ。仮に求職者30万人(その家族を併せると約80万人の生活か)として、全員を期間5年の国家公務員に任用する。いやだという人は除く。年俸は一律400万円で県知事の指揮下に入り、復旧に関するいかなる仕事も拒否せず従事する。

 30万人のマンパワーがあるのだから国は必要物資の提供だけでよく、生活保護は不要。逆に、例えば漁業公務員は漁港・漁業再建に専念し、得た漁業収入は5年間県に納める。

 国や東京電力への賠償請求や義援金配分は5年間凍結する。その間、東電を倒産ではなくて再建させる。

 この費用、年間1兆2千億円。直ちに償還期限100年の国債を発行してそれを充(あ)てる。ただし、この百年国債(無利子)は相続時に非課税とする。すると全国の動産1億円以上の人は必ず買う。最小限1万2千人など軽いもので、もっと多くいる。5年間で計6兆円など簡単。

 この百年国債の額面は1万円・5千円、寸法は一万円札・五千円札と同じにし、法律で通貨としても認める。贈り物にも使えるので普及する。この百年国債が通貨としてやがて日銀に還流してくると抜き出して焼却する。おそらく10年でほとんど消え去り、100年後の償還の必要はなくなるだろう。もちろん、持っておきたい人は100年間持っておればいい。

 さて復興の一案。被災地へのボランティアには敬服するが、善意だけに任せず、制度化しよう。すなわちポイント制である。

 全国民が日曜日など時間があるときに近くで福祉関係のボランティアをし、1時間につき1ポイントとして貯(た)めてゆく。そして自分や家族が介護をはじめ援助を必要とするとき貯めたポイントを使って時間分を人に来てもらう。来た人もポイントを得られる。これは赤字介護保険などに対する大きなバックアップとなる。もちろん厚生労働省が社会保険と連動する制度として立ち上げよ。いま東北でボランティア活動をしている方々にはポイントを2倍にせよ。東日本大震災を赤字社会保険の救世主とするのだ。禍(わざわ)いを転じて福となす。

 さらに復興そして経済成長のために、私は『正論』5月号(4月1日刊)に書いた。政府の国家的プロジェクトとして、瀬戸内海に海力発電(海流・干満の利用)所を100カ所ぐらい建設することだ。どの発電方法よりも安価で安全に得られ、この安い電力によって製造価格を下げられ、日本の国際競争力を高め、経済成長をすることができよう。

 以上は一例。こうした石をなぜ打つことができないのか。かつて孔子は弟子の質問「現在の為政者はどんなものですか」にこう答えた。「ああ、斗●(としょう)の人(小さな器(うつわ)の凡才)、なんぞ算(かぞ)うるに足らん」(『論語』子路篇)と。(かじ のぶゆき)

●=竹かんむりに趙のつくり