おばちゃんのアメちゃん。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【大阪特派員】鹿間孝一



これも都市伝説だろうか。東京で勤務していたころ、よくこんな質問を受けた。「大阪では一家に1台、必ずタコ焼き器があるって本当?」

 確かめたことはないし、そんなデータも聞いたことがないが、わが家にはある。で、「ホンマですわ。それも穴の大きいのと小さいので2台。よう家族でタコ焼きパーティーしますねん」。その答えを期待していたのだろう。やっぱりと納得顔になる。

 続いて、「お好み焼きでご飯食べるのは?」とくる。「そんなん、普通やん」。これには怪訝(けげん)な顔をするので、大阪の食文化や粉もん事情を説明するのだが、炭水化物をおかずにする発想が不思議らしい。

 「東京にもラーメンライスがあるやろ。うどんやソバとご飯もあり、やろう」「だって、あれはスープと思えば…」

 ああ言えば、こう言うで、「お好み焼きとご飯はおかしい」と言い張って、引かない。

 4月末、道頓堀に「コナモンミュージアム」がオープンした。日本コナモン協会監修で、粉もんの歴史と文化を学べるというから、今後は理論武装して東京人をギャフンと言わそう。が、今回の本題は粉もんではない。

 こちらの方が都市伝説らしいかもしれない。

大阪のおばちゃんはいつもアメ玉を持っている。

 大阪ではアメ玉を「アメちゃん」と呼ぶ。電車の中でゴホンとせきをすると、隣に座った見知らぬおばちゃんが「アメちゃん、なめる?」と声をかけてくれた-などという話をよく聞く。

 これには裏付けのデータがある。大阪発行の夕刊に「新街場の大阪論」を連載している江弘毅さんが、大阪市阿倍野区にできた「アベノあめ村」を紹介していた。オープンに先立って、地元の中年以上の女性100人に聞き取り調査をしたそうだ。

 セロハン紙に包んだキャンディーを「何と呼びますか」と質問すると、71%が「アメちゃん」と答えた。「今日はアメをいくつ持っているか」には、69%が「持っている」で、1人平均4・73個。「なぜアメを持っているか」は「人にあげるため」が36%だったという。

 知らない人に「アメちゃん、どない」と差し出すのは、東京では胡散(うさん)臭い行為と見られるだろうが、大阪のおばちゃんは、それで人と親しくなるきっかけをつくる。「アメちゃん」は、コミュニケーション・ツールなのである。

 大阪研究家の前垣和義さんが「大阪のおばちゃん学」で、このように考察している。

大阪には下町が多く、そこに長屋がある。長屋の路地をはさんでそれぞれの生活があり、そこに生活していたのが、大阪のおばちゃんである。つくったおかずを、「お隣さん、どないです」と分け合っていた。最近はそんな光景はあまり見られなくなったが、代わりに「アメちゃん」を携帯するようになり、見知らぬ人にも「おひとついかが」と譲るようになってきた、と考えられないか。〉

 おせっかいのようで、親切心が根底にある。理より情、論より行動の大阪人の気質を、おばちゃんの「アメちゃん」が体現している。

 以前、広島でタクシーに乗ると、女性運転手がいろんな種類のアメ玉を「お好きなのをどうぞ」と差し出した。もしや、と思って尋ねると、案の定、大阪で暮らしたことがあるという。目的地までの30分ほど、話が弾んだ。

 やはり「アメちゃん」はコミュニケーション・ツールだった。(しかま こういち)