先月コラムで紹介した『ドイツ産ジョーク集888』(アートダイジェスト)の編著者、田中紀久子さんのもとには、福島第1原発の事故以来、ドイツの知人からのメールが相次いだ。どれも「部屋を用意したから、逃げてこい」といった内容ばかり。
▼「制御不能となった原発が大爆発する」。現地では、こんな過剰な報道が広く信じられているらしい。そのドイツのメルケル首相が、2022年までに脱原発を図る考えを、このほど明らかにした。
▼早速「ドイツに学べ」といった声が上がりそうだが、ちょっと待ってほしい。チェルノブイリ原発事故後の反原発の機運に乗って、シュレーダー前政権は、脱原発政策を推し進めた。昨年それを修正したのが、メルケル政権だ。代替エネルギーの普及までには、時間がかかるとの現実的判断だった。
▼今回の再修正は、福島原発事故で再燃した反原発の世論から、政権を守るためにはやむを得ない。島国の日本と違い、近隣国から電力の輸入が可能という事情もある。脱原発によって、原発大国フランスへの依存がかえって高まるかもしれない。
▼そういえばかつて、戦争責任の謝罪と補償問題をめぐっても、「ドイツに学べ」との議論があった。日本とナチス・ドイツ「同罪論」の誤りを正した、評論家の西尾幹二さんらによって決着したはずだが、まだ残滓(ざんし)があったようだ。震災のドサクサにまぎれて衆議院で可決された日独交流150周年決議のなかにも、両国の歴史を同列に扱うずさんな記述があった。
▼もちろん、ドイツから学ぶべき点は多々ある。堅苦しいイメージが強いドイツ人だが、田中さんによると、ユーモアの質はきわめて高いそうだ。