平成20年2月19日未明、千葉県の房総半島野島崎沖で、ハワイでの訓練を終えて横須賀港に帰港途中の海上自衛隊のイージス艦「あたご」と、マグロはえ縄漁に向かっていた同県の漁船「清徳丸」が衝突した。漁船の父子が行方不明となり3カ月後に死亡認定。
横浜地方海難審判所は21年1月、事故の主因を「あたごの監視不十分」と裁決し、所属部隊に安全運行徹底を勧告。衝突前の当直責任者に対しては事故との因果関係を認めなかった。
横浜地検は21年4月、衝突時と直前の当直責任者2人を業務上過失致死罪などで在宅起訴した。
「事故の再発防止図る」海上幕僚長
杉本正彦海上幕僚長の話 個人の刑事裁判であり、判決についてのコメントは差し控える。海上自衛隊としては、この痛ましい事故を忘れることなく、事故の再発防止を図っていく。
イージス艦衝突事故後の経過
平成20年2月19日 あたごと漁船「清徳丸」の衝突事故発生
3月28日 防衛省が艦長ら6人を更迭
5月20日 第3管区海上保安本部が漁船の父子を死亡認定
6月24日 3管本部が衝突時と直前の当直士官だった2人を書類送検
9月4日 横浜で海難審判始まる
21年1月22日 横浜地方海難審判所が裁決で、事故の主因はあたご側と認定。所属部隊に安全運行徹底を勧告
4月21日 横浜地検が当時の当直士官2人を在宅起訴
5月22日 防衛省が不適切な見張りが事故原因とする最終報告を公表。当時のあたご乗組員38人を処分
22年8月23日 横浜地裁で初公判。2被告が無罪主張
23年1月24日 検察側が2被告にいずれも禁錮2年求刑
1月31日 弁護側が最終弁論で改めて無罪主張し結審
5月11日 2被告に無罪判決
横浜地裁判決の骨子
海上自衛隊の2被告はいずれも無罪。
検察側が指摘した清徳丸の航跡は正確さを欠く。
検察側は航跡特定のため、恣意的に僚船船長らの証言を用いていると言わざるを得ない。
「法治国家であれば当然の判断」
無罪判決受け3佐が感想。
海上自衛隊のイージス艦「あたご」の衝突事故の公判で無罪を受けた3等海佐2人は公判終了後、ほっとした表情で判決の感想を語った。衝突時の当直責任者、長岩友久被告(37)は「当然の判決ではあったが、公正に判断していただいた裁判所に感謝している。この国が法治国家として健全だったということに安心した」。
衝突事故直前まで当直責任者だった後潟桂太郎被告(38)は「法治国家であれば当然の判断。膨大な証拠類をよく検討していただいたと感謝している。新しいスタートの地点に立ちつつあると思っている」と述べた。
2人の主任弁護人の峰隆男弁護士は「よく裁判所は証拠を吟味し、われわれの主張を随所に取り入れていただいて納得できる判決だった」と話した。
イージス艦「あたご」(奥)と衝突した漁船「清徳丸」の船尾部分(手前)。中央は海上保安庁の巡視艇
=2008年2月、千葉県・野島崎沖の太平洋