新茶で放射線を迎え撃つ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









茶カテキンの抗酸化作用で防衛。


春雨が降って百穀を潤すという「穀雨」が終わるころ、暦日にいう雑節の「八十八夜」になる。この頃になれば、気温が下がっても霜が降りることはないらしい。八十八夜の別れ霜である。

 立春から数えて88日目にして、待ちかねた新茶の季節がやってきた。茶どころの静岡をはじめ、宇治、知覧、狭山では、いまが茶摘みの最盛期である。

 新茶をいただくと、1年間は無病息災で過ごせるとの言い伝えがある。今年は心していただくことにした。もとより、お茶好きではあるが、緑茶の主成分カテキンが放射線の防御に有効だと聞いては飲まないわけにはいかない。

 カテキンはコレラ菌や腸炎ビブリオへの殺菌作用があり、うれしいことに抗酸化作用もあるそうだ。東京電力の福島第1原発から飛散した放射線をお茶で迎え撃つことができるのなら、手ごろな庶民の防衛策である。

 ご記憶の方もあろうが、昭和29年3月の太平洋のビキニ環礁海域で、操業中のマグロ漁船が米国による水爆実験で飛散した放射性物質を浴びた。死者をだした「第五福竜丸事件」である。

 このころに飛び交ったのが、「死の灰」や「ストロンチュウム90」で、世間はパニック状態だった。雨が降るたびに放射能が測定され、やたらと恐怖心があおられた。われら東京下町の小童は「頭がはげちゃう」と逃げ惑った。

 そんなさなかに、お茶の葉にこのストロンチュウム90が付着し、かつ土壌に降った死の灰が茶樹から吸収されると発表されて大騒ぎになる。この騒動を沈静化したのが静岡大学放射化学研究施設の塩川孝信教授だった。

「茶の中のストロンチュウム90はタンニンと不溶性の化合物をつくっているので、飲用するお茶の中には溶け出てこない」と発表した。タンニンの成分が抗菌作用のあるカテキンである。さすが茶どころ静岡の大学である。

 それを教えてくれたのは、巣鴨駅近くのお茶問屋「冠城園」の3代目社長、冠城勲さんである。父の稲次郎は、茶問屋を継ぐ前は白山通りを南に下った原子力研究所隣の理化学研究所にいた。

 ここで茶の研究をしていたのが、日本医師会のドン、武見太郎だった。当時の武見は、唐代の『茶経』や僧、栄西の『喫茶養生記』にいう茶健康論を医学的に立証することを考えた。

 「三年ほど研究して、茶におもしろい性質のあることを見だした。それは剰余アルカリをふやすことである。またビタミンCの破壊を防ぐ作用のあることもわかった」(武見『私の履歴書』)

 武見はまもなく、胃酸減少貧血に粉末の煎茶が効果的であることを発見する。ほかにも効用があるはずだと、茶の研究にのめり込んでいく。

 若き武見が、茶の効用分析に血道をあげていたとは面白い。その後は、彼の遺詔を継いで多くの研究者が緑茶の成分のカテキンがもつ抗酸化作用や抗菌作用の性質を次々に明らかにしていく。

 最近では掛川市立総合病院の副院長、鮫島庸一さんが緑茶の飲用が放射線障害である発がんの予防に「最もふさわしい生活習慣だ」とその効用を説いている。科学的な分析は省略するが、緑茶の産地、掛川市ががん死亡率がもっとも低い地域であることが立証されている。

 ここまで書いて、お茶を一服いただいた。養分を蓄えたお茶の木は、春になるとみずみずしい新芽を吹き出す。これが一番茶である。うまい。


                                   (東京特派員・湯浅博)