W・ワイラー監督の『ローマの休日』は、若い人でも一度は見たことがあるに違いない名画だ。A・ヘプバーン演じる某国の王女が欧州歴訪中のローマで夜の街にさまよい出る。そこで偶然、記者であることを隠した男性と知り合って…。
▼どうやら某国にとって、若くて美しいアン王女は外交の切り札であり、国の将来を託した存在のようだ。それが重圧ともなって宿舎の大使館を抜け出したらしい。しかしわずか1日の「休日」を楽しみ、恋も味わった王女は24時間後、意を決して帰る。
▼「何があったのですか」と迫る大使らに対する王女の言葉が印象的だ。「私が王家と国とに対する義務を自覚していなかったら今夜、いいえ永遠に戻ってはこなかったでしょう」。一昨日、英ウィリアム王子の結婚式をテレビで見て、このアン王女の凛々(りり)しさを思いだした。
▼王子夫妻も英王室と国民の期待を一身に背負っているようだ。父、チャールズ皇太子の離婚などで危機的状況になった王室の人気は急速に回復してきたという。250万人の失業者を抱えた国内には、結婚で景気浮揚を望む声も聞こえているらしい。
▼王子個人の好感度も78%で、王族の中ではトップだ。となればアン王女同様、プレッシャーも相当なものだろう。だが結婚式での王子は「バルコニー・キス」まで堂々とふるまい、そんなそぶりは見せなかった。他国民から見ても「頼もしい王子」だった。
▼日本でも大震災後、天皇、皇后両陛下の被災地ご訪問などで、皇室のありがたさを改めて感じた国民も多い。だが若い皇族の減少などの問題点は抱えたままだ。英王室の結婚式は素晴らしかったが、日本の皇室の将来も真剣に考えたいと思う。