【解答乱麻】TOSS代表・向山洋一
教師の指導には、効果があるものとないものがある。効果のない指導をいくらやっても駄目である。
例えば、跳び箱がとべない子への指導だ。「手をもっと前について」「思い切ってジャンプして」などと指導するが、すべて効果はない。
私は跳び箱がとべない子を3分ぐらいでとばせられる。20年ほど前、ほとんどのテレビで実演した。誰でもできる方法だ。これを知らない教師は、不勉強といっていいだろう。
人気テレビ番組で、「立ち幅跳び」でたった5センチしか跳べない主婦が一日で激変した。それまで、何年も家族で応援したのに、練習したのにどうやっても5センチだった。
TOSS体育授業研究会の根本正雄先生が2時間教えて激変したのである。2倍、5倍増えたのではない。何と29倍。1メートル43センチをとんでしまったのだ。テレビを見ていた人も多いと思うがこれが指導力である。
指導は、粗く言って3段階である。
第一は、やり方を教えること。教えられる側は「分かった」となる。
第二は、やり方を身につけること。「できる」という状態になる。
第三は、やり方が十分に身につくこと、習熟である。「大丈夫」となる。
大切なのは、第一と第二のステップだ。「やり方」が分かり、「できる」となることだ。力量のある教師は、そこを大切にする。力量のない教師はそこをおろそかにする。
「教えて、ほめる」が力のある教師、「教えないで、叱る」のが駄目な教師である。
「計算」や「漢字」を教えるのに、毎日「ドリル」や「プリント」をやらせて、点検する教師がいる。
親は「勉強している」と思うが、この方法では、学力はつかない。
第一と第二のステップがないからである。ソロバンの指の使い方を教えないで、毎日、宿題に練習させているようなものだ。
同様に百マス計算も効果がない。
第一と第二のステップがないからだ。「教えないで、ストップウオッチでおどしている」のである。
百マス計算をとり入れた全国の1千校ほどを調査したが、ほとんどなくなっている。効果がなく、算数の授業時間がつぶれ、発達障害の子供たちが反乱したからである。
計算も漢字も、授業の中で、できるようになる。毎回、5分ほどでいいのだ。ほとんどの子が満点をとる。私は「ドリル」の害を見て、授業中にやる「漢字スキル」「計算スキル」を発明した(商標は私が持っている)。この教材は、授業中使うのだが、全国に燎原(りょうげん)の火のように広がった。宿題なし、“のこ勉(居残り)”なしで、算数市販テスト平均90点以上が続出しているからだ。
ここで、漢字指導に悩む母親のためにアドバイスをしよう。
1年間でおよそ150の新しい漢字を習う。毎日1文字マスターすればよい。この時、簡単な方法がいい。1日1回、食事前の2分間でよい。教科書の中の新出漢字を毎回2文字出題する。答えは空中に指で書かせる。その時、筆順も言わせる。
「山」なら「イチ、ニーイ、サン」となる。できなければ、テーブルの上で練習させて、できたら食事にする。1日2分間の指導で、苦手な漢字を克服した親子が、何千人もいる。
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【プロフィル】向山洋一
むこうやま・よういち 30年以上の教員経験。代表を務める「TOSS」(教育技術法則化運動)は全国の教員約1万人が参加。