【産経抄】4月13日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






昨日ようやくプロ野球が開幕したことで、思い出したことがある。昭和35年6月、日米安保条約改定で反対デモが渦巻き、国民がカッカとなっていたころだ。総攻撃の的だった岸信介首相が「それでも後楽園球場は満員だ」と述べたとされることである。

 ▼正確には記者団の「国民は大きな社会不安を持っているが」という問いかけにこう答えた。「都内の野球場や映画館は満員で、銀座通りはいつもと変わりがない」。あの安保騒動の中でも「まあそう熱くなりなさんな」とばかり、腹をすえていたことがわかる。

 ▼今回の大震災で1カ月たった今も、国民は余震や原発事故への不安で依然、カッカとなり浮足立っている。こういう時の各界のリーダーには敏速な行動も必要だが、一方で「後楽園は満員だ」とうそぶくような冷静さも見せるべきだ。それが国民に安心感を与える道だ。

 ▼ところが昨日、政府の原子力安全・保安院は唐突に福島第1原発の危険度を「7」に上げると発表した。最悪といわれた旧ソ連のチェルノブイリ原発と同レベルだという。これまで冷静に構えていた人でさえ「そんなにひどいのか」と不安を感じてしまう。

 ▼よく聞けば事故発生当時、数時間に放出された放射性物質量が7に該当した。その後は急激に下がり、チェルノブイリの1割となったにもかかわらず、レベルを5から一気に上げたという。いわば1カ月さかのぼり「危険」を強調しているようなものだ。

 ▼それならなぜこのタイミングなのかと思う。同じ遅ればせなら、原発や国民の気持ちがもう少し落ち着いてからでよかったのではないか。これでは政府が国民と一緒にオタオタしていると国際社会から見られてしまう。