「頑張れ」と言われても…。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【喪失 大震災から1カ月】被災地でなくてもストレス。



実際に被災したわけではないのに、気持ちが沈む。埼玉県の主婦、中村滋子さん(32)は東日本大震災以降、やり場のない抑鬱感を抱えて暮らしていた。

 「震災後、牛乳や紙おむつがなくなり始めて焦り、計画停電のためどうやって生活をやりくりしようかと悩み、原発事故で当たり前に思っていた空気や水への安心感が揺らいだ」

 4歳と2歳、4カ月の3人の男児を育て、買いだめする人であふれるスーパーの行列にも並べなかった。夫(29)は食品工場に勤めており、計画停電のある日は生産ラインが止まるため休業になった。

 中村さんは「家族の生活リズムも変わってしまったが、子供たちには不安な思いをさせたくないので平静を装った。それがまたストレスになった」と話す。

 「ロビンソン」など数々のヒット曲で知られるバンド「スピッツ」は、ボーカルの草野マサムネさん(43)が3月17日に「急性ストレス障害」と診断され、4公演を見送った。

 所属事務所は「体験したことのない大きな揺れや続く余震、想像を絶する被害、悲惨すぎる現実が連日報道され、また原発事故の深刻な状況などを感じ、目の当たりにし続けることで過度のストレスが急激に襲いかかった」と説明する。

■門灯消えた住宅街

 東京都内の企業で産業医を務める浜口伝博医師(52)=産業保健=によると、震災後、「被災地の映像が頭をよぎる」と訴え、血圧の上昇や微熱が続く患者が後を絶たないという。

 浜口医師は「あれだけの映像を見続ければ衝撃を感じるのは当たり前だ。被災地に知人がいなくても、日本人であれば身近に思い、つらく感じる」と話す。

 計画停電で街の明かりが消えていることも抑鬱感を引き起こす要因になる。浜口医師は「北欧は冬の日照時間が短く『冬季鬱』になりやすい。東京の薄暗い地下鉄の構内や、門灯がすべて消えた住宅街を歩けば気がめいる。被災者のために何かをしたいのに何もできないという無力感も後押しする」とし、こう述べた。

 「何もしないとどんどん落ち込むので、やはり体を動かすのがいい。そのためにはしっかり寝ること、食べることが重要になる」

 スピッツの草野さんは快方へ向かっており、13日から公演を再開するという。

■ふんどし一丁から

 《みんなで頑張れば絶対に乗り越えられる。日本の力を、信じてる》

 民放テレビで震災報道の合間に繰り返し放送されているACジャパン(旧公共広告機構)のCM。歌手のトータス松本さん(44)が呼びかけ続ける。

 事務局によると、視聴者からは「元気が出た」「勇気づけられた」という反響の一方、「同じメッセージが繰り返され、気がめいる」「耳鳴りのように残る」といった制作意図とは異なる声も寄せられているという。被災地で「頑張れ」と声高に叫んでも、「こんなに頑張っているのに…」といった反応を示す被災者も少なくない。

 フランス文学者で筑波大学の竹本忠雄名誉教授(78)は「大震災の被害そのものはいかに甚大、悲惨であろうとも日本人の忍耐と英知によって必ず克服されるだろう。外国の援助もあるだろう。だが、精神の立ち直りはわれわれ自身によってしかできない」とし、65年前の国難であった敗戦後の体験を話した。

 「東京の下町は大空襲で焼け野原となった。みんなで神社を再建し祭りを行った。着る物もなくふんどし一丁の男たちが境内に勢ぞろいし、戦災孤児たちと黒山の人垣を作って気勢を上げた。戦後の復興は紛れもなくあそこから始まった」

 そのときの色あせた写真は、現在も社殿に誇らかに飾られているという。