【産経抄】4月10日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






前にも紹介したが、中西輝政氏の『なぜ国家は衰亡するのか』に「大英帝国衰退の光景」という一章がある。あの繁栄を誇った大英帝国に20世紀初頭、衰退のきざしが見える。そのとき国民の間に何が起きていたかを丹念に調べ上げている。

 ▼例えば海外旅行ブームが起き、温泉ブームに沸く。古典より軽薄な趣味が増え文字よりマンガが好まれる。どれも今の日本や先進国に当てはまりそうだ。その極めつきが「健康への異常な関心」である。新聞は競って健康に関する記事を載せ、雑誌は健康法の特集を組む。

 ▼たばこを好きなだけ嗜(たしな)み、パイプをくわえ健康食品を買いにいく人を皮肉る記事もあったそうだ。今の日本にもありそうな話だ。むろん普段のときであれば目くじらを立てる話ではない。「健康であれば死んでもいい」というジョークも笑って聞き流せる。

 ▼だが今度の大震災では、食料もまだ十分確保できない人たちがいる一方で、風評被害や買い占めが起きている。ごく一部の作物から放射性物質が検知されただけで、野菜全体が売れない。水道水から一回だけ検出されると、もう水の買いだめに走る。

 ▼冷静に考えれば、いずれも健康被害にはほど遠い話だ。それがすぐパニック状態となる。それは異常なまでの健康ブームの悪しき影響と思わざるをえない。この非常時にも「自分と家族が健康であればいい」という気分が巣くっているのである。

 ▼温泉ブームも健康への異常な関心も国家衰退の光景であり原因ではないかもしれない。だが国民が一体となり復興に取り組まなければならないとき、風評に惑わされ買い占めに走る。それでは復興どころか、日本が衰退の道をたどりそうな気がする。