【産経抄】3月13日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







秋田県の南部に松尾芭蕉の『おくのほそ道』で知られる象潟(きさがた)がある。芭蕉がここを訪れた江戸時代前期の1689年当時は「潟」の名で分かる通り、湖状の入り江だった。そこに島々が浮かぶ姿は、松島と並ぶ絶景といわれた。

 ▼ところが一世紀あまり後の1804年に起きた大地震で約2・4メートルも隆起、水面は一夜にして野と化す。その後は水田の中に島の跡の小さな丘が点々とする、という芭蕉が見たものとは別の景色となった。地震の持つ力のすごさを見せつける形状である。

 ▼M8・8という巨大地震は、それよりもはるかに大きい力で東日本を襲った。昨日も書いた大津波だけではない。恐らく地盤の大変化も加わり、全体が水没したり壊滅状態になったりした街がいくつもある。丸一日以上がたっても被害者数も被害額も想像がつかない惨状だ。

 ▼それにしてもこの巨大地震は専門家の「常識」を超えるものらしい。大地震の後に余震が続くのは不思議ではないが、今回はその余震のたびに震源地が大きく異なり「南下」している。昨日早朝の長野県北部などの地震も誘発されたものという見方が強い。

 ▼そんな遠くの揺れを誘発したとすれば、常識はずれの魔物だ。地震国日本ではこれまで、科学の力を結集しながらその正体の解明と予知に取り組んできた。ではあるが、まだまだその魔性を十分には理解していないと言わざるをえない。

 ▼それでも発生以来、不眠不休で魔物の爪痕と戦っている自衛隊、警察、消防などの関係者には頭が下がる。特にこの政権から疎んじられがちだった自衛隊の力なしには、状況をつかむことすらできない現実がわかったはずだ。ともかく一人でも多く救出してほしい。