拍子抜けするほどの明るさ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【40×40】笹幸恵



2人の男の40年以上にわたる闘いの結末。それが、もうすぐ明らかになる。

 布川事件。私が生まれるより前の出来事だ。茨城県の利根町布川で独り暮らしの男性が自宅で殺害された。別件逮捕されていた桜井昌司さんと杉山卓男さんという2人の男性が、警察の取り調べで殺害を「自白」した。その後、裁判では無罪を主張するも、最高裁で「無期懲役」が確定。再審請求は最高裁で棄却された。30年近く獄中にあった彼らは、仮釈放後も再審請求を続け、2年前に再審が決定。そして今月16日に、いよいよ再審判決が出されることとなった。逮捕されてから40年以上の長い歳月--。

 先日、私は仮釈放となってから再審が決定するまでの、彼らの14年間を追ったドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』の試写会へと出掛けた。上映時間は2時間40分と長い。けれど結果から言えば、「あれ、もう終わってしまった」というほど、あっという間である。それだけ人の心を捉えて離さないのだ。

 一つは、対照的とも言える2人の男性の人間的魅力。タカオはあまり弁が立つほうではない。けれど内に秘めた強烈な自負心がある。真面目に生活したいと愚直に努力を続ける。一方のショージは、口から生まれてきたのかと思うほど、よく喋(しゃべ)る。おおらかでよく笑う。女性の手を握っては、「どうしよう」とはしゃぐ。2人は仲が良かったわけではない。逮捕された当時、お互いに不信感を抱いていたことも映画の後半で伝わってくる。それぞれのキャラクターの輪郭が明確になっていく面白さが、この映画にはある。

 そしてもう一つ、無罪を勝ち取るための壮絶な闘いという重いテーマがあるにもかかわらず、この映画は拍子抜けするほど明るい。しかし、明るいからこそ浮き彫りになってくるものがある。それが何か? 気になる方はぜひ映画をご覧あれ。今月19日から新宿と横浜で公開予定。そこらのぬるいテレビ番組や映画に飽き飽きしている人にはうってつけの、良質なドキュメンタリーである。(ジャーナリスト)