【風を読む】論説副委員長・高畑昭男
財界トップの日本経団連会長が国会の現状について「給料泥棒のようなものだ」と発言したことで波紋が広がっているという。
日本経済が内外で厳しい状況に直面し、「必要な政策を迅速かつ着実に実行する行動力が求められる」というのはその通りだ。だが、与党も野党も一緒くたに「給料泥棒」と切り捨てるのはいかがなものか。
確かに、小沢一郎民主党元代表に近い衆院議員らが会派離脱を表明した問題のように、この重要な時期に党内権力闘争にうつつを抜かすような行為は給料泥棒と呼ばれても仕方がないだろう。
しかし、民主党の平成23年度予算案に対し、自民党など野党側が強く反対してきたのには理由がある。税・財政と社会保障の一体改革の問題や数々のバラマキ政策をこのまま放置すれば、国民生活も日本企業も立ち行かなくなるからだ。
子ども手当に関しては、副総理や財務相も務めた菅直人首相が「びっくりした」と暴言を吐き、自らが実現性を疑問視していたことが露呈した。この党とその指導者は、これほどに定見がない。彼らに国家を任せていたら本当に破綻する。国民の声を聴き、速やかに総選挙を行って出直すのが国家のためだと思う。
財界、ビジネス界だって、明日を考えたら「総選挙でどうのこうのいう状況ではない」と心から言えるのだろうか。与野党の違いや政策の当否を吟味せず、まとめて泥棒呼ばわりでは、真剣に国家の将来を考えている議員たちは立つ瀬がない。国会と政治への無関心や懐疑主義をあおる「悪(あ)しきポピュリズム」につながりかねないことも心配だ。
もちろん国会の側にも、歳費の削減や各種手当の廃止など早急に是正すべき問題は少なくない。議員らが国民に率先して身を切る努力を示す必要があるのはいうまでもない。
それでも今回の発言は少々乱暴だったのではないだろうか。むしろ予算案のどこが問題なのか、明快な見解や具体的注文を聞きたかった。