【緯度経度】ソウル・黒田勝弘
先日、韓国の有力紙に1ページの全部を使った本の広告が出ていた。今から20年ほど前、韓国でベストセラーになった小説『ムクゲの花が咲きました』(金辰明著)の新装版の広告だった。
宣伝文句には「なぜ再び“ムクゲの花”か-独島を自分たちのモノと教える日本と軍事協定締結とは?」とある。領土問題と最近の日韓防衛協力問題を結びつけ、また反日ムードで売ろうというわけだ。
この小説は韓国によくあるいわゆる“日韓仮想戦争モノ”。日本の自衛隊が竹島奪還を口実に韓国に侵攻し、その反撃のため韓国と北朝鮮が共同で核ミサイルを開発し日本に向け発射するというお話だ。
日本との領土紛争と、南北が協力して日本を攻撃するという典型的な“反日・親北ナショナリズム”の大衆小説である。当時、数百万部も売れ話題になった。
これが今、「再び」売れるかどうか興味深いところだが、その後、時代は微妙に変化している。
当時の、日本をやっつけるための「南北共同で核開発」論はその後、北朝鮮の核開発と相次ぐ軍事的挑発で後退し、今や北朝鮮の核開発をやめさせるため「韓国も核武装」論や「日韓共同で核開発」論にとって代わられつつある。
年初から韓国のメディアにその種の主張が登場していたが、ついに国会(25日)でも語られはじめた。
火付け役となったのは与党ハンナラ党の元代表で次期大統領選に意欲を燃やす鄭夢準議員。まず「世論調査の結果、67%が韓国の核武装に賛成している」と発表した。
本人は「韓国独自の核武装は微妙な問題だが、北との均衡上、少なくとも米軍の戦術核兵器の再搬入は考えるべきだ」と控えめだったが、やはり与党の元裕哲議員(国会国防委員会委員長)などは「北の核問題が解決するか南北統一が実現すれば即時解体するという条件下で、韓国も核保有すべきだ」と主張している。
また保守系野党の宋永仙議員も「北の核廃棄が難しい場合、韓国としては最後の手段として独自の核武装を進めるほかない」と述べ、国民的議論を呼びかけている。
こうした韓国の核武装論は、これまでも一部で語られてきたが、今回は最有力紙・朝鮮日報に最近、2度にわたって掲載された金大中コラムニスト(元主筆、元大統領とは別人)の主張の影響が大きい。
その寄稿文は「南が核を持ってこそ北は交渉する」(1月11日付)「韓国の核兵器は議論する価値もないというのか」(8日付)と題され、いずれも北朝鮮に核を放棄させるための交渉手段として、韓国の核開発の必要性を強調したものだ。
金大中氏は保守派で「韓国で最も影響力のある言論人」といわれている。「20年以上にわたって北の核問題一つ処理できない大国の無能と限界にわれわれの安全を任せることはできない」といい、イラ立ちがありありの中身だ。
そして「6カ国協議で北に対し核放棄の期限を設定し、それが守られない場合われわれも核開発すると宣言してはどうか」と提案している。
韓国の核武装論ではさらに「日韓共同の核開発」論も出ている。保守派の論客で知られる金容甲前議員はラジオ・インタビューで「北東アジアの平和のため、北に核を放棄させるため、われわれと日本は核開発で協力しなければならない。われわれも(対北)戦略を変える必要がある」(1月18日、平和放送)と堂々と発言している。
韓国は在韓米軍撤退の動きがあった朴正煕政権下の1970年代、対北自主防衛のため核開発を計画したが、米国が対韓防衛約束を明確にしたため放棄したということがある。
6カ国協議の参加国の中で非核国は韓国と日本だけだ。さあ、日本はどうするか。