【日本発 アイデアの文化史】
■ネット通信機能も備える
最新のカーナビは、衛星からの信号や道路交通情報通信システム(VICS)のデータを受信する一方で、インターネットを通じて車側から情報発信もしている。共用サーバーに装着車の走行データがどんどん蓄積されている。という話だけど、さっぱりわからない。それが何の役に立つんでしょうか?
約30年前、元祖カーナビ「エレクトロ・ジャイロケータ」を生み出した本田技研工業では、ネット通信機能を備えるようになった現行の製品を「インターナビ」と呼んでいる。
「インターナビの会員はいま125万人です。それだけの車から集めた位置や速度のデータを分析すれば、渋滞予測もできるし、どのルートが早いかもリアルタイムでわかる」
インターナビ事業室長の今井武(57)が、具体的なデータを示しながら解説してくれる。「東京・大阪・名古屋の市街地で、当社の通信機能のないカーナビを使うよりも、平均車速が時速6・2キロアップしました。燃料も二酸化炭素排出量も削減できることになりますね」
なるほど、そう言われるとわかりやすい。なにより感心させられたのは、ホンダ車のユーザー以外も恩恵を受けられること。
「たとえば、どこで急ブレーキをかけたか、というデータを抜き出せます。頻発する場所をチェックすれば、危険性を回避できる可能性がある」
同社が埼玉県にデータを提供し、見通しを悪くしていた植栽を刈り取るなどして安全対策を施したところ、16カ所で急ブレーキ回数が約7割減少したという。車が発信するデータは「プローブ交通情報」と呼ばれている。ホンダ以外の自動車メーカー、カーナビメーカーなども同種のサービスを展開中。交通環境の改善に役立つ最新技術として注目されている。
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カーナビはいま、自動車用品業界においてタイヤと並んで売上高の1、2位を占める人気商品になっているという。
自動車用品販売店を全国展開するオートバックスセブンによると、「エコカー減税で新車需要が高まったのに伴い、当社グループ店舗においても据え置き型のカーナビの販売が好調に推移しました」(IR・広報部)。
スーパーオートバックス東京ベイ東雲(東京都江東区)を訪ねてみると、最新のカーナビがずらりと並んでいた。車体から取り外しができるポータブル型と、オーディオ機能などを備えた据え置き型に二分されているようだ。
宣伝文句を拾い読みすると、どうやらカーナビ界にも“地デジ特需”が訪れているらしい。店員に聞いても「地上波デジタルテレビが映るモデルが売れ筋」だとか。
そうなのだ。カーナビはもはや、道案内をしてくれるだけの機械ではなくなった。テレビが映る。機種によってはオーディオとも一体化している。
自車位置の精度や地図の詳細さといった基本性能は、ほぼ横並び。そうなると、消費者に訴えるのは低価格か、あるいは娯楽性などの付加価値になる。「今後は通信タイプのナビがもっとでてくる」というのが同社の予想だ。
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カーナビはなぜ、自動車産業の歴史が長い欧米ではなく、日本で発明されたのか。自動車評論家の青砥浩史(50)に聞いた。
「地形や道路の複雑さ、高度なエレクトロニクス技術なども土壌ですが、指摘したいのは『治安の良さ』です。車の中に貴重品を置いていても平気な社会環境がなければ、誰もカーナビなど開発しようと思わなかったでしょう」
なるほど、そうかも。ただ、いまや「カーナビは高級品」という感覚も薄れてきた。安いものは3万円を切っている。「エレクトロ・ジャイロケータ」の10分の1。それどころか、某自動車メーカーでは「カーナビ無料」のキャンペーンも。あって当然の装備になりつつある。では、未来はどうなるのか。
「装着率が上がるほど、渋滞緩和や事故防止の効果は高まる。究極的には、自動運転を目指すことになる。すでに実用化されつつありますが、カーナビと車載カメラを併用することで、数センチ単位で車を制御することも可能ですから」
ドライバーがやるのは、目的地を入力することだけ。そんな時代も遠くないのかもしれない。それが、楽しいドライブなのかどうかはともかくとして。
=敬称略(篠原知存)
最新機種がずらりと並ぶ自動車用品販売店のカーナビコーナー