「世界一運の悪い男」問題に思う。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【新聞に喝!】関西大学副学長・黒田勇


今月21日、広島と長崎で二重に被爆した故・山口彊(つとむ)氏が、英BBCテレビのお笑いクイズ番組で「世界一運が悪い男」と紹介されたことで、在英日本大使館がBBCと番組制作会社に書面で抗議したことが報道された。大きな記事ではないが、日本のメディアはこぞって、BBCの無理解と核保有国の傲慢さを批判している。

 当事者の山口氏は「二重被爆」というドキュメンタリー映画でも有名で、戦後、長く核兵器の悲惨さを自身の経験から強く訴え続けていたが、昨年93歳で亡くなっている。ご存命であれば、さぞ悔しい思いをされただろう。

 私も早速、BBC宛てに抗議のメールを送った。それに対しBBCからは、担当プロデューサーの釈明の言葉が送られてきたが、報道通りの言葉が並んでいた。「日本人の(核)問題に対する潜在的な敏感さを過小評価した」し、「軽い番組で扱うには不適切と日本人が見なすのは理解できる」と釈明しているが、このメールでは「謝罪」の言葉はなかった。

 ただ、その後の反響の広がりに、BBCは会長名で「謝罪文」を日本公使館宛てに送ったと報道されている。日本の世論は「謝罪」を取り付けて留飲を下げ、一件落着の感がある。

 しかし、これだけで日本の報道は終わっていいのか。今回の報道は、海外メディアからすれば、被爆国の「感傷」としか映らない。「私たちの気持ちを分かってください」と、戦後ずっと私たちが保持してきた態度でもある。今回も無理解な外国をしかる報道に終始したが、これを機会にすでに被爆から66年を経た段階で、海外の核問題に対する意識と現状をフォローする報道がぜひとも必要だろう。さらに、現在の国際関係の文脈で、日本が被爆国として核問題とどう取り組むのか、日本の平和戦略の中にどう位置づけていくのかを検証する報道がほしい。

 幸い27日に、「長崎市が山口氏のドキュメンタリーを放送するようにBBCに要請した」との新聞報道があった。この後BBCがどう対応するのか、英国世論はどう対応するのか。一方日本は英国とどう「交渉」するのか、前原誠司外相はBBCに対し激怒したというがこれからどうするのか。これがしっかりできなくて、もう一つの「核保有国」北朝鮮を相手にはできまい。今回の事件をきっかけとして、粘り強く継続的な取材を期待する。それが唯一の被爆国である日本のメディアの責任でもある。

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【プロフィル】黒田勇

 くろだ・いさむ 昭和26年大阪市出身。京都大学大学院教育学研究科修了。平成11年関西大教授。21年10月から現職。



草莽崛起

      二重被爆者に対する不適切な放送で抗議を受けた英BBCのテレビセンター

                               =2010年1月、ロンドン(共同)




草莽崛起

        被爆体験について講話する山口彊さん=2009年6月、長崎市