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ワンチャンの日々

何もできない自分が唯一できる文字が書ける事を使い、小説を創作してみるチャレンジブログ(大分マニアックな小説なので合わない方多数と思われます、自己責任でおおらかな気持ちで作品を楽しめる方にお勧めします)

「パタン」車のドアの閉まる音がする。

「おはようございます、先輩今日は特に寒いですね」 後輩の亜紀とは駐車場で会うとこが多い。

私はとある地方都市の小さな会社の研究施設に勤務している。冬は寒く雪が積もる事もある、この時期の挨拶には天気の事が欠かせない。

「そうね、まだ雪は降りそうにないけど来週くらい危ないかも」

「そうなんですか、私雪が降って車を運転するの始めてだから心配ですう~」

「すぐ慣れるよ大丈夫、でも油断は禁物。
タイヤはもう替えてる?今週中には替えて準備した方がいいよ」

「じゃあ、カツヤに連絡おねがいしますね、今日も仕事が終わったら会いますよね?」

「そうだけど、この時期カーショップは土日も忙しいから、特別に頼んでみるけど亜紀貸しひとつよ!」

「エへへ、だから先輩大好きなんで~す」

亜紀のこのフレンドリーなキャラクターが憎めない優子はやれやれと首を振りながら歩いて更衣室に向かう。


研究所には女子更衣室は2ヶ所あり、部署ごとに分かれて部屋を使っていた。

亜紀がスカートを脱ぎながら
「先輩聞きました?」

「何を」

「リストラの事ですよ、向こうの更衣室ではうわさに成っているようで、今期の研究成果を比較して課の統合と人員削減するそうです」

「あちゃ~とうとう来たか、前々から研究成果が上がらないのを本社から指摘されてたし、でもウチなら大丈夫じゃない?前期の実績も負けてないからね」

「それがですね本社の子に聞いたんですが、今年の目玉の新商品が競合他社に販売数で負けたそうなんです。もちろんウチの商品の方が良かったんですが、最近の不景気で品質よりコスパも含めやられちゃったそうです。」

「それってウチの評価がどうとか関係ないじぁない」

「いや営業部長が本社販売会議でウチのボスと揉めた様で、今回の失敗は商品の高品質が原材料費を上げた為販売価格が抑える事が出来なかったと言ったそうです」

「確かにうちのボスが商品の品質を提案してるけど、最終的にどの位にするかは役員と販売部で決めるでいるでしょ、その営業部長怖いもの知らずね。ウチのボスに喧嘩売るなんて」

「なんでも2人は同期で、方や研究所のトップと本社といえど1部門の営業部長どまり、今までも色々有ったようです、今回ボスの評価下げさせて研究所を吸収させてポストを奪うつもりともっぱらの噂です」

「まあ何にしてもこちらが出来る事は、年末までに新しい研究成果を出すだけ、あと2ヶ月は忙しくなるからプライベートも自粛しないけど優子は大丈夫」

「私は彼氏いませんから、それより先輩の方こそ、クリスマスはどうするんですか?」

「それなのよ~カツヤが記念日とかイベントが大好きだから、まあお互いに年末は忙しいからダメに成っても多分大丈夫かな?」

「あれあれ何か自信のない口ぶりですね、カツヤを紹介した私としては今後も交際は続けて寿退社までいって欲しいんですけど」

「努力はするけど、それより亜紀にも私の知り合い紹介しようか?」

「ホントですか、先輩の知り合いって何気にレベル高いんですよね、私が紹介したカツヤなんて比べ物にならないから、でもなんでカツヤが良かったんですか?周りの男達を差し置いて」

「まあ、お互い求めているイメージが似ていたことが一番かな、あれでもカツヤ将来のことも考えているし、忙しい私の癒しになっているから」

「ナルホドそうなんですね、この仕事ストレス溜まるから、私も他で発散させないと」

2人の話は続き、始業開始5分前のチャイムが鳴った。「大変早くしないと」

優子はロングヘアーの髪を綺麗にまとめ、丸めてシュシュで留めた。
亜紀の方は髪を右側の肩の所でシュシュで留めて、毛先はそのまま前に流していた。

「亜紀、髪はちゃんと纏めていないと危ないわよ!」

「大丈夫ですって、先輩は心配性なんだから」  

いつもの事とはいえ、身なりに気を使う亜紀は最初の内はアドバイスを聞いていたが、最近は注意しても軽く流すようになっていた。

午後5時前、定時まではあと少し

「先輩今日は早く上がれますよね?」ソワソワしている亜紀。

「そんな事よりこのデーターを入力して」

「は~い」生半可な返事が来る、優子としては入力ミスをしないか心配で仕方ない。


コロコロ パタン 亜紀の机の上に有る器具が下に落ちる。
「亜紀、机の下に落ちた、踏んで壊れたら困るからすぐ拾って」優子は自分の作業の手を休めないで指示を出す。

「ハイ・ハ~イ」だるそうに返事をした亜紀が椅子に座ったまま拾おうとした時

「危ない!!!」優子の声が部屋中に響いた。

「動かないで、薬品が飛び散るから!!」
亜紀が屈んだ時、机に上に有った薬品の入ったトレーの中に肩の所でまとめていた髪が浸かっていた。

「嘘 先輩どうしよう~」情けない声を出しながら優子に助けを求める。

優子がすぐさま亜紀の所に近寄り、そ~と髪を薬品から取り上げ横の流しに頭ごと持っていった。

「先輩~」泣きそうな顔をしている亜紀に

「大丈夫、皮膚には付いていないから動いちゃダメ」

優子は薬品を触らないようにして拭き取り、周りに飛び散らないようにして水で流しながら髪を洗った。

「先輩どうなっていますか?」うつ伏せになっている亜紀は髪が心配で仕方ない。

優子が渇いたタオルで髪の水分を取りながら表面を見る。
「亜紀、薬品が付いた所はダメね」

よく見ると髪は薬品が染み込んで変色している。
試しに優子がシュシュを取り触ってみたが、ボロボロの毛先は以前のような柔らかさは無く引っ張ってみると簡単に切れる状態になっていた。

「亜紀、前から言ってたしょ、髪はちゃんとまとめるように、私みたいにしていればこんな事には成らなかった、でも皮膚に薬品が付かなくて良かったわ」

亜紀も反省したのかウンウンと頷きながら聞いている。

すると今回の騒ぎを聴きつけた室長が部屋入ってきた。
「ハイハイ 他の人は仕事を続けて、原さんと田中さんは私の所に報告に来るように」と出頭命令が出た。

 

一時間後、二人が足取り重く研究室に戻る途中
「先輩今日はスミマセンでした」と落ち込む亜紀

「今回は私の監督不行き届きもあるし、今日はこのまま定時で上がってイイから」
優子は気を利かせたつもりで優しい言葉をかけたが、亜紀の表情は曇ったまま。

2人が研究室のドアを開ける、同僚はすでに帰っていると思っていたが、なぜか慌ただしくデータの確認作業がが進んでいた。

同僚の凛が駆け寄り
「優子大変、今データーを調べているんだけどスゴイのよ」

「なになに、どうした?」

「さっき石井さんが髪を漬けた薬品のデーターなんだけど、試しに計ってみたらすごい数値なのよ、これでイケるんじゃない?」

優子は渡されたシートを自分でも確認する
「そうね、でもこのデーターだけじゃ少ない、もっと詳細なのがいる」と自分のPCにも数値を打ち込む。

凜は追加データーをどうするのかと優子に聞いた。
「まず今回この髪に含まれる成分だけど、ウチではすぐ用意できないない、仕方ない亜紀あなたの髪、貰うけどイイ?」真顔の優子の迫力にOKを出しそうになったが

「先輩~ここから使えそうな髪取っちゃったらベリーショートに成ってしまいますよ、それだけは勘弁してください」亜紀の悲痛な叫び声が聞こえてきた。


優子は心を鬼にして
「亜紀今回はケガも無く大事には至らなかったけど、一つ間違えれば会社に迷惑が掛かったかもしれない、今後のいい教訓として今回は諦めなさい」

・・・・・少し考えた亜紀は
「わかりました、今回の反省の意味も込めて提供します、でもなるべく切る量は少なくお願いしますね、先輩」

 

優子はとりあえず髪を切る準備を始めた。
「鋏とクシあと う~ん 恵 少し大きめのタオル持ってる?」

「これしかないけどイイかな?」
恵が出したタオルはフェイスタオルより少し大きいサイズ

「まあ仕方ないか、亜紀これを首の所に巻いて、それで髪が襟から入ることはないと思うから」

道具の準備が揃い亜紀を椅子に座らせ、早速髪を切る事に、まずは色の変色した所を省くために肩の所でカットすることに

ジョキッ ジョキッ>>>>>>>>>
 鋏が髪を切る音がするたびに亜紀はビクッと肩を反応させ「先輩~ 大丈夫ですか~~~」

ジョキッジョキッジョキッ>>>>>>>>>

優子は黙々とカットを続ける

ジョキッ ジョキッ >>>>>>>>>

変色した髪だけど亜紀にとっては、何年も時間と手間をかけたもの、まさか今日お別れするとは本人も不本意だろう。

その横では足元に散ばる髪をなるべく亜紀に見せないように、恵がテキパキと集めゴミ袋に詰めていった。

5か月ぶりの新作かわいい悪魔たち如何だったでしょうか?

 

2作目は夢の国で働く人達で書き始めたのですが、中々思うように

進まず、書いて消し読み返せば?とこれではダメと少し寝かす事に。

 

 気持ちを切り替えて新しく書き始めたのがこの作品です。

子供のイタズラで髪を切られる話は、断髪小説ではテッパンですが

2人の女性が同時に悲惨な目に合うのも新鮮かと思います。

 

今回も文章以外にコミPoを使い絵も入れているのですが、キャラクターのレパートリーが少ないので今後はどうするか検討中(自分で絵が描けないのが悔しい)それよりももっと読みやすい文章を書けよって事かもしれませんが(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調子が出て来たのか、少し鼻歌を口ずさみながら髪に指を通し少しラフに毛先を遊ばせるようにクシャクシャと髪を乱れさせる。

「美和さんイイでしょ、短い髪ならこんな風に毛先に動きを付けてみる事も出来るしロングでは出来ない事もショートなら簡単だから」

指先で毛先をねじったり横の髪を耳に掛けたりと、短い髪のアレンジ方法などを次々と披露していく京子に興味津々に頷く美和、2人の会話は楽しげに続いていた。

「じゃボブの髪型のアレンジ説明この辺にして、カットの続きをしてしていくわ、美和さんの場合横の髪が一部短く切られているから、もう少し短い耳の出るショートカットに仕上げていくから」

京子はシザーを持ち横の耳近くの長さを調整していく「シュッ シュッ パサ シュッ パサ シュッ シュッ・・・・・・・」

短い髪が肩に溜まっていくのが鏡に映るが、今の美和には不安の表情は見えない。

「シュッ シュッ シュッ パサ シュッ シュッ」何回も繰り返される事で美和の耳が少しずつ見えてくる

クシで梳きながらカットラインを確認しながら何回もレザーが髪をそぎ落としていくのを繰り返す。

鏡を見て前から見える横の髪のラインを確認、イイ感じなったと小さくうなずき、次に反対側のカットを始める。

美和は切り終わった横髪を触ってみる、毛先が耳に当たるので自分で少し撫で気味に触り長さを確認する。

「耳に毛先が当たる感覚不思議でしょ、初めて毛先が当たるほど短くする人は殆ど同じように触るから」

京子は手を動かしながらも前の鏡で美和の動きを見ていた。

「他の人も同じなんですか、何か親近感湧きます。髪を短く切る時こんな体験できるなんて」

横では手を動かしながら鏡越しに京子が
「特にこの短さならね、美容師としては声を大にして言いたいよ、ロングの人特別な体験が出来るから1度はチャレンジしてみたらどう?てね」

クシを握る手を上に上げながら力説している京子を見て、ケタ・ケタと笑いながら相づちをする美和

その間にもカット続き横が終わると次に後ろに取り掛かった。

今度はハサミを使いクシで髪を梳きながら指に挟んだ髪を切る

「ジョキッ ジョキッ シャッ シャッ ジョッキ」
後ろは勢い良く切っていく、鏡では確認は出来ないが凄く短く切っているようだ。

後頭部に当たる手の感覚やクシに何回も梳かれる髪が徐々スピードを増していく。

「ジョキッ シュッ シュッ ジョキ シュッ シュッ ジョキッ・・・・・・」

最後の方はクシで梳かれる回数の方がハサミの音より多くなっていった。

「後ろはこんな感じかな」京子は椅子を半回転させ横から鏡に映る後ろのラインを見せる。

「首筋が出る位短くしているけど、襟足は遊びのある長さだから女性らしさもある、後頭部に丸みを出してあるから後ろ姿は魅力的に見える」

美和が恐る恐る指先で襟足の毛を触ってみる、確かに短いがこの位の長さならと思えるカットになっていた。

「こんなに短い自分の髪を触るのは初めて、ちょっと恥ずかしい気持ちになるけど、これは快感になるかもしれないですね」

「そうなの、髪をバッサリ切る人の特権なの、私が美容師として一番うれしい瞬間はこの時お客様と一緒にドキドキを味わう事 う~ん今回も頂きましたぁ~気に入ってもらえてうれしぃ!!」
と京子のガッツポーズが出た。

この頃になると京子の行動に驚く事もなく、美和も温かい目で見れるようになってきていた。

イスを正面に戻して頭頂部のブロッキングしていた髪を下すと、ボブの長さの髪が横や後ろの短い髪の上に覆いかぶさる、クシで梳かしながら指で伸ばしながらハサミで切る。

「ジョキッ バサ ジョキッ バサ」
上の長い髪を勢い良く切るので目の前に沢山の髪が落ちていく


「ジョキッ ジョキッ」横の髪の長さに合わせながらつながるラインに注意しながらも大胆に切っていく、膝の上に溜まった髪は今まで経験したことのない量その切った髪を美和は指で摘まんでみる。

パパが気に入ってた髪ご苦労様、長年連れ添ってきた髪に別れの言葉を掛けるように見つめている。

「美和さん前髪はどうしましょうか?」

その言葉にハッとして現実に引き戻される。

「今と同じような感じで少し切って軽くしてください」

「そうね、その方が似合いそう」

レザーを手に取り前髪に入れる「シャッ シャッ」
何回が入れてからクシで梳き量を確認する。

「こんな感じ横に流してね、ハイお疲れ様」

鏡に映る自分をまじまじと見る以前とは違う表情に驚く、育児で疲れパパに大丈夫と心配されてた自分とは違う、髪を切るだけでこんなにも変わるんだ、これならパパも気に入ってくれるだろう。

美和は頭を左右に振るが以前のように踊る髪は無い、ただこの髪の軽さには心躍る。

今まで心のどこかで心配していたあの約束もう気にしなくていいだろう、だってこれほど私が気に入った髪型なのだから。


「美和さんセットはこんな感じで、柔らかめのワックスをサッサッと付けて毛先を遊ばせ、耳の辺りの髪を指で摘まんで少し広がるようにして完成」

京子のセットが終わった頃、隣りの託児所から美音とモモを連れた奈々が入ってきた。

「うわ~思いっ切り短くなってる」

奈々が周りをぐるぐる、横の髪を触ったり襟足の所処理を見てうんうんと頷く。

「美和、美人さんはショートも似合うからイイね~」

「奈々ちゃん美人さんてだけじゃないの、私のカットセンスとプラスアルファの結果よ」京子は自信満々に胸を張る。

「分かってますって、あと私の方もお願いします、ベースがソコソコなので京子さんの腕で美和に少しでも近づけさせて、お願い!」と手を合わせて必至に頼む姿が痛すぎる。

奈々の真面目なお願いに2人が顔を見合わせて笑い出すと、釣られて美音とモモも笑い始め4人の笑い声が店の中に響いた。(完)

      

 

2時間後お店の前に到着「サロン・ジ・エンド」

「すごい名前ね」

「サロンジプシーの私がたどり着いた最後のお店、腕も確かだし何より人柄がいいの、美和も気に入ると思うよ」

ガラスの扉開け店の中に

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

いつものように笑顔で挨拶をしてくれる京子はこの店の店長、従業員は他にスタイリストのアキラと受付の純の3人の小さなお店。

店内は南国風の壁紙と天井からぶら下がっている観葉植物が沢山あり華やか、席は2席だが普通の店より豪華に見える椅子が鎮座していた。

「予約していた山口です。」

「山口様、2名ですね、お待ちしていました、こちらの方は初めてですね、こちらに記入お願いします」

初来店の美和はアンケートを記入して渡しソファーに座って京子が来るのを待った。

「ハ~イ奈々ちゃんどうしたの?」と派手な髪色の女性登場。

「京子ちゃん これこれ見てよ最悪 だよ」
奈々は被っているアポロキャップを脱ぎ悲惨な頭をさらけ出す。

「ははは、エッ何?やだ すごいわね」
奈々の髪を触りながら被害の状況の確認。

「自分でやったの?そんな事ないわね、しかしこんなの久々に見たわ」

「そうでしょ、自分でも信じられないけど、子供のイタズラに巻き込まれたの、も~昨日に戻りたい」

「まあまあ そうね先月来た時は毛先のカットとカラーを変更してヘアーエステもして ふむふむ」
奈々のカルテを見ながガタガタに切られた髪をクシで梳かし苦笑いする京子

「もう~先月この髪に幾ら掛けたと思うんです、今カードの限度額一杯だから大変なんです」

「ご愁傷様、カードのご利用は計画的に♡」

延々と続く思われた奈々のカウンセリング中、突然京子が振り向く。

「で こちらの方は」

「私の友人の美和、この子の髪も見てほしんだけど」

京子は美和のパーカーを脱がせるとシュシュを取り髪を解いた。
「こっちも凄いわね、何?横は右側が短くて、うん綺麗な黒髪ね」クシで少し絡んでいる所を直しながら、「後ろ向いて」と両肩に手を添えながら背中を向けさせる。

「凄すぎ、一部分だけ短くなっているの?えっえっ
ここは、うんこれはね、あ~切っちゃうしかないかな」

言葉は軽く聞こえるが髪を見る表情は鋭く、的確に被害状況を見ながら
「ここで切って、ここは仕方ないか じゃあここは」
ぶつぶつ いつものように独り言を言っている京子。

それを聞いて不安が増した美和の口からは

「そうですか、やっぱり切らないといけませんか、パパがロングヘアー好きなんで短くしたく無いんですけど」

京子は本人の希望を聞いても冷静に状況を分析して
「切らないわけにはいかないし、パパさんに気に入ってもらえるように出来るから大丈夫」とニコニコしながらVサイン。


根拠のない自信の京子に初対面の美和が面食らっていると、横に座っている奈々が軽く肩を叩きながら
「大丈夫だって京子さんすんごいんだから、あの読モのアキノをイメチェンさせたんだから、絶対切るとは思わなかった彼女をね」

「私とモデルさん比べられないよ」

「いや いや美和さんあなたも負けないくらい美人だから、私将来芸能方面に行くと思ってたもん」

「そんな事ないわ・・・・・・・・・」

奈々の援護射撃?に少し照れながら反論していた所

「えっ今日は私に任せてもらえるんでしょ?大丈夫
大丈夫、痛い様にしないから、ヒヒッ」
京子の訳の分からないいつもの表現が出た所ですかさず奈々が

「今日はお任せします、全部好きなようにやっちゃて下さい。」と軽いノリで返す。

「良いの?じゃお二人さん、ご案内!」

コントのようなこの会話の後、自分に降りかかった悪夢に従わなければならない美和は覚悟を決め椅子に座り前の鏡を見た、そこにはいつもの自分は居なかった。

ロングヘアーの黒髪を今まで維持してきた苦労が
蘇る

結婚式・綺麗なドレスに合わせて編み込みアップやローシニヨンとお色直しのたびに色んな髪型
を披露した。

妊娠・つわりがひどく髪の手入れもなかなか出来ない、姑からは髪を切るように言われるがパパの為に断り続けた。

妊娠中・お腹も大きくなり入浴の時に邪魔になり一時は切ろうと考えたが思いとどまった。

出産後・体質の変化か抜け毛が多くなり、床に落ちた髪がある事で姑の嫌味が増えたが、子育てと掃除は手を抜かず頑張った。

子育て中、美音を抱っこしている時髪をしゃぶる癖があり不衛生だと言われ子供の為切ろうと考えたが思いとどまり髪を一つに締ばる事にした。

幾度となく切らなければならな危機を、潜り抜けてきた髪だけど今回ばかりはどうする事も出来ない。

「初めまして京子です、こんなに綺麗に伸ばした髪、維持するのは大変でしたね」


「そうですね、いつまでもロングヘアーを続けるつもりだったけど、今回のことで覚悟が決まりました。人生初の長さになる覚悟が出来きてます、パパが気に入るヘアースタイルにしてください」

「任せて!さぁ始めましょう」

京子はクシで梳きながら切る位置を確認すると一気ハサミを入れた。

「ジョキッ ジョキ ジョキッ」 微かに首筋にハサミの刃先の背の部分が当たる。 

「ジョキッ ジョキッ」髪を切る音よりもハサミが首筋に当たる感覚がとても新鮮に思えた。

「スルッ  ス~」切られた黒髪が肩から流れていき床に静かに落ちてゆく、美和はそれを見ながらパパのあの言葉を思い出す。

まだ付き合って間もない頃

「美和って綺麗な髪してるけど切らないでくれよな!」

「何、和也ロングが好きなの?」

「そうだな今まで付き合ってきた子は皆ロングだった」

「じゃあ私が短くショートにしたら嫌いになるの」

「そんな事ないよ俺が好きなのは美和だけだから、今までの子は髪を切ったら疎遠になって自然消滅になっていたけどね」

「大丈夫、私今まで短くした事ないから安心して、和也の好きな私でいるから」

程なくして私は美音を身ごもって和也と結婚した、この約束は昨日までは無意識のうちに続いていた。

「シャキン!     パサッ」 最後に左横の髪を切った、今まで見た事のない長さの自分が映っている。

少し頭を振ってみるが今まで経験したことのない軽さに毛先が踊るとても楽しい。

全体的なシルエットは顎の長さの切りっぱなしのボブ、頭に残った髪の長さは以前の三分の一程度軽くて当たり前、本人が驚くのはここまで髪を短く切った事のない人の特徴。

「カチャ」ハサミを置く音と目の前の鏡に映る美和の笑顔を京子は確認してから声を掛けた。

「どう?初めてこの長さにしたら軽くて驚くでしょ、髪って本当に重いから。
美容師としてはこの軽さも一度は経験してほしいけど、ロングを好きな人って中々切りたがらないから損してると思う」

「そうですね、今日このチャンスがなかったら私も損していたかもしれなんですね」

京子も自分の考えがお客に通じて、ニヒッとちょっと独特の笑顔になった。

 

「奈々起きて大変なの」

「う~ん美和いいとこなのもう少し・・・〇△□・・・」

美和はこの状況を早く伝えたいと体を強引に揺すり、奈々は寝ぼけ眼でこちらを向く。

「ちょっとこれ周り見なさいよ!!」

目を擦りながら状況確認

「うわ! これどうしたの?」

「どうしたのって、見れば分かるじゃない髪よ髪!!」

「美和の髪?、確かに切れているけどこの量は違うよね?」

「私だけの髪じゃないはあんたの髪もあるのよ、
鏡見てみなさい」

テーブルの上にあった鏡を受け取り自分を映すとそこには茶髪のロングヘアーのわた・・・・・
が居なかった。ガタガタに切り刻まれ所々極端に短い所がありセンスの欠片もない無邪気なカットの私が居た。

パクパクと口を動かし、声が出ない奈々は恐る恐るモモに視線を向ける。

うわぁ~と手で目を覆う、 モモの表情はこの惨劇の当事者とゆう自覚もなく与えられおもちゃで気持ちよく遊んだ後の満足感で満たされていた。

奈々はハサミと鏡と一緒にをテーブルの上に置き一呼吸して一言

「どうすんのこれ?」と自分の髪をつまみ上げる。

奈々の性格からして叫んで同調を求めるだろうと思っていた美和もこれには驚いたが、自分も被害者なのでこれ?と言われてすぐに返答できなかった。

見つめ合い言葉を掛け合えない2人、対照的に子供2人は相変わらず髪を持て遊び放り上げたり、地団駄踏んで踏みつけたり楽しそう。

この状況下でようやく被害者の2人は重い口を開いた。

「落ち着いてとにかくこれ(髪)片付けよう、口に入れたりもしてるし掃除機、イヤ長い髪は手で拾わないと」

「そうね、この子達私がみるから奈々掃除お願いできる?」

「いいよ、2階の私の部屋使ってベット脇に棚にお菓子があるから子供達と食べていいから」

冷静を装い美和を見送り、この惨状に改めて辺りを見回し、「この茶髪は私・とっ、この黒髪は美和」
長い髪を集めながら一人ぶつぶつ呟く

「美和の髪はツルツルだ、私の髪なんてブリーチとカラーでキシギシこんなにも手触り違うなんて」

長い髪をゴミ袋に捨てながら奈々は2人の髪質の違いを実況しながら黙々と作業は続いて行く。

一方2階では

「美音、モモちゃんこれで遊んではダァ~メ」とハサミを見せながら説明するが、2人にはまだハサミで遊ぶ危険性を理解は出来ていない。

きゃっ きゃ ぶ~ぶ~ と意味不明な言葉を言いながら膝の上に手をつきおもちゃ(ハサミ)を取り戻そうとする2人、それをさせまいと腕を伸ばし上に伸ばすが体をよじ登って来るまるでゾンビのように(笑)

「ダメダメ、ホント危ないんだから」

手の届くところには置いておけないと机の引き出しにの中にしまい手を見せ

「ほら、もうありませんよ2人とも居なくなりました」
不満顔の2人だがどこにもハサミが見えないので諦めすぐほかの興味のある物を探し始めた。


30分後2人は探し疲れたのか遊び疲れたのか、ウトウトし始めたのでベット連れて行き、布団を掛けると直ぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。

パタ パタ パタ 階段を下りてきた美和に奈々は手に持ったビニール袋の中身を見せた。

「うわ、こんなにもあるんだ、でもこれ茶色い髪が多いね」

「茶髪は私のだけど、この長い黒髪は美和のでしょ」

確かに全体的量としては茶色の髪、でも長くとぐろを巻いているのは黒色の髪、比べる必要はないがお互いに頭を見れば被害の状況は自ずと見えてきた。

奈々の肩下の長さの髪が段々に適当な長さで切られ揃ったところなく顎下の髪が全体的に切られていて揃っている所は無い

対して美和は腰少し上の長さの髪、悲惨なのは一部分だけ首筋の所で切られてる後ろ髪、長さは50センチを超えているだろう。あとは右横の髪は耳たぶが見える位置で切られている、全体的にスパット切られているので短い髪が無いのでビニール袋に入っている量が少なく見えたのだろう。

「美和、お互いに災難だったね、お姉ちゃんから預かっているモモにケガが無くて良かったぁ~」

「ホント普通のハサミと言え、間違えて手なんか切ったらと思うと想像しただけで怖いわね」

2人はお互いの災難より子供の安全が護られていたことに安堵した。

でも次には目をつぶる事の出来ないこの現実立ち向かく事に

「美和自分の頭見た?」

「ううん、怖くてまだ見えてないの、でも奈々のその頭を見ているから悲惨な事は分かるけど」

奈々はテーブルの上の鏡を渡した
「う!!」何とも言えない一言が出た
「横短いうわ~耳たぶ出ちゃってる」

パサ パサ 美和が頭を左右に振ると短く切られた切り口が少し揺れながら頬を叩く
「ショック~こんな所切るの?信じられない↷」

「子供だからね、切りやすい所から切ったんでしょう、耳無事でよかったね」

特に気になるのか美和はしきりに左右の顔を見比べている、しかしそれよりもっと悲惨な状況が待っていた。

奈々は落ち込んでいる美和を台所横の洗面台の所に連れて行き、合わせ鏡で後ろ確認させた。

「・・・・・・嘘・・・・・・・・・・」
手で口元を遮り次の言葉は出なかった。


肩にぽんぽんと力少なく叩くとばっと振り向き、泣き顔を隠しもしない美和が私の胸に飛び込んできた。「えっぐ えっぐ なっ 奈々~ わ 私・・・・・」

美和は今まで我慢してきた気持ちがついに爆発した。これは母親として抑えていた気持ちではなく、一人の女性としてこの現実が受け入れられなく涙が出た。

奈々は美和が落ち着くまでしばらくこのままにしていた。「美和このままじゃダメだから髪切りに行こうか?」そう言いながら肩を少し離して顔を覗き込む

涙を指で拭いながら懸命に笑顔を作りだそうとする美和

「そうね、パパが見たらビックリするからこのままじゃ帰れない、何処かいいお店ある?」

「私の行きつけのお店連絡してみるから待ってて」

スマホを取り出しラインで{こんにちは奈々です} ピコ {こんにちわは・・・・・・・・・・

「予約完了、2時間後にお店に行くからタクシーも呼ばないと、あと託児所があるから2人も一緒に」

2人は取り敢えずこの頭が目立たないようにする事に奈々はアポロキャップを被り目立たないように、美和は後ろの長い髪を器用に丸めシュシュでまとめ短く切れている横の髪は隠しようが無いのでそのまま耳にかけ奈々から借りたパーカーに髪を押し込めた。