怪我の功名?② 作:断髪の語り部(完) | ワンチャンの日々

ワンチャンの日々

何もできない自分が唯一できる文字が書ける事を使い、小説を創作してみるチャレンジブログ(大分マニアックな小説なので合わない方多数と思われます、自己責任でおおらかな気持ちで作品を楽しめる方にお勧めします)

「は~い、みんな聞いてください!私がこれから素材の髪を切りますので受け取った人からデーター分析始めてください、量が足りない場合には言ってください追加を用意しますから!」

優子は髪を20センチ位の長さを束にして切っていく、亜紀は次々と切られ人づてに渡されていく髪をただ、ただ見ているしかなかった。

ジョキッ ジョキッ

「原さんこっちの足りないから追加お願い」

ジョキッ ジョキッ ジョキッ ジョキッ

「こっちも」  「お~い全然足りないよ」

部屋の中では慌ただしく人が動き回り追加の要求があちらこちらから聞こえた。

「思ったより追加が多いな~」
優子が想像していたよりもデーター解析が思うように進まず、髪の消費量だけが増えていく悪循環に陥ってしまった。

2人は亜紀を残して廊下に出て話すことに

「優子このまま続けたらまだ沢山いるわ」

「ここでやめたら時間のロスだし、今更止めるわけにいかないでしょ」

「でもこれ以上田中さんの髪切れないわよ」

今亜紀の髪は横は耳の下の長さになっていて、素人が見てもこれ以上短くするのは酷な事のように思えた。

優子は少し考えおもむろにスマホを取り出した。
「あっカツヤ今話しできるかな?」

「良いけど」

「カツヤってロングヘアー好きだったよね」

「そうだね、まあだから優子と付き合っているんだけどね、髪短かかったら付き合いは考えるよね」

「うん? なに私が髪を切ったら別れるって」

「イヤイヤそんなことはないけど・・・・」

しどろもどろのカツヤは優子の気に障る事を言ってしまったと、後悔したがそれは後の祭り。

少しの沈黙の後優子はスマホに向かって
「ねえカツヤ私の魅力は髪の長さだけじゃないんだからね、見ていなさいよ(怒)」

ピッ スマホを切りポケットに入れ、ドアを開け周りに聞こえるように、いや自分に活を入れるかのように

「皆さんもう少しでデーターも取れると思います、
私の髪も提供します、あと少しよろしくお願いします」

優子の声が皆に届き回りからは

「ヨッシャやるぞ! もう少しだから頑張りましょう  任せとけよ 」と気合の入った言葉が再び飛ぶ。

優子は覚悟を決めお団子にしていた髪を解く、カラーもパーマもしていないバージンヘアーが見るものによっては、滝のように背中にふわりと広がったように見えた。

「優子ホントにいいの?ここまで伸ばした髪」

「うん、でも亜紀にだけ負担を掛けるわけいかないから、早めに成分分析の結果も出したいし」

優子はクシで最後の別れを惜しむように丁寧に髪を梳き、襟足ギリギリの所を紐で結んだ。

「ここの所で一気に切って、おねがい」とハサミを渡され躊躇する凛

「でもこんなに切らなくてもいいんじゃない?後はショートカットにしないといけないよ」

「わかってる、さっきの会話聞こえたでしょ、彼に私の魅力を気づかせるにはこのくらいのイメチェンが必要だから やって!凛」

凜は仕方がないと思いハサミを持ち切り始めた。

チョキッ    チョキッ   ハサミの刃先を束ねた髪に少しずつ入れ何回も回数を重ねながら切り進めていく。

あと少し、残った髪に支えられながら切り口の所でぷらぷらと髪束は揺れる。

チョキッ・・・ 最後の一切りが終わり、凛が慎重に出来た髪束を机の上に置く。

優子はそれを一瞬寂しそうな目をして見るが、すぐ束ねた紐を取り20センチの長さの髪束に切っていく。

 

二人で手分けして出来た髪束を小さなトレーに入れ、それぞれの手の届きやすい場所に置いて歩いて回る。

作業が佳境に入り、見る見るうちに優子の髪束も無くなっていくが、それに比例してデータ解析が終わっていく人も増えて行った。


2時間後全部終わり、室長宛に報告書をメールして今日の業務が終わった、最後まで研究室に残っていたのは優子と亜紀の2人だけ。

机の上に優子の髪が少し残っている、この髪の長さ50センチが今まで入社してから伸ばした髪。

カツヤが好きだと言っていたが、もう未練はない。


「先輩今日はお互いに大変でしたね」いつもの屈託無い笑顔を向けてくる後輩。

 

優子は短くなった亜紀の横の髪を触りながら「可愛くなったねぇ~ショートが似合うから男性陣がほっとかないよ」

 

「そうですか、困っちゃうな~明日からどうしましょう先輩(笑)」と満更でもない様子の亜紀

短い髪を手でクシャクシャとしながら体を左右に振ってい居る、若い子ならではの表現、優子には出来そうもないが。

「先輩こそ可愛くなったんじゃないですか?」と後ろに回ろうとする亜紀

「ダメ! まだ縛っていた紐外してないの、多分長さが違うと思うから見せられないし、見せたくない」
優子は後ろ頭を手で隠しながらしきりに亜紀の動きをけん制する

優子の鉄壁なガードで、後ろを見る事の出来ない亜紀は観念してポケットからスマホを取り出しラインを始めた。

それを見て安心して、机の上に残っていた髪をゴミ箱に入れ帰り支度を始める優子

ラインが終わったのか自分の席で帰り支度を始める亜紀がニヤニヤしている。

「何ニヤついてるの」

「いや、優子さんが見せてくれないんで、今私が行っている美容室に予約入れましたから、そこで見せてもらいますから大丈夫です」

「あなたも執念深いはね、そんなに悲惨な私を見たいの?」

「見たいで~す(笑)」

後輩に、ここまでされたらこの茶番に乗るしかない、丁度自分の行きつけの美容室には時間的に間に合わないし、せっかくショートにするなら初めて行く美容室も良いのかもしれない。

「そうと決まればレッツゴー!」亜紀が右手を上げる

優子はその元気な後輩の横で、新しい髪型になる自分にワクワクが止まらない。

終わり