今年下半期に管理人が触れた諸々の作品の中で、特に印象に残ったものを列挙する年末恒例企画。今季も昨年と同じように年末放送の『岸辺露伴は動かない』が控えているため、暫定順位となる。昨年は惜しくもランクインを逃したものの、今年は名作の呼び声も高い『ザ・ラン』と『六壁坂』に加えて、まさかのJOJO本編のチープトリック回が採用されたとのことで、話題性も充分……とはいえ、杉本美鈴のいる『振り返ってはいけない小路』はスピンオフである本作との整合性を如何つけるかと思うと、期待半分不安半分といったところか。猿之助の乙雅三はフツーに見たい。某半沢で話題になった土下座とは真逆のブリッジポーズを楽しみにしている。
それでは、発表に移りたい。6位から10位は簡易紹介である。
10位 青天を衝け(大河ドラマ)……下半期オンリーではなく、上半期を含めた全体の順位。明治官僚時代までは何とか前半のクオリティを維持出来たものの、肝心の実業家編での尻窄み感は否めなかったため、上半期から順位を一つ落としての第10位……とはいえ、馴染みのない題材&五輪&コロナ禍による話数削減のトリプルコンボを食らった割には健闘した。詳細は来週の総評をマテ。
9位 fff-フォルティッシッシモ-(宝塚歌劇)……久しぶりにラストまで楽しめた宝塚作品。上田久美子作品にハズレなし。個人的には謎の女との遣り取りを中心としたコメディにステータス全振りしてもよかったと思う。そして、初めての『推し』が出来たと思ったら退団公演だった件。真彩希帆さん可愛いよ真彩希帆さん。
8位 鷹木信悟VSザック・セイバーjr(プロレス)……上半期のVSウィル・オスプレイ二試合を含めると今年のベストバウトトップ3全てに鷹木信悟とかいう名勝負量産マシーンが絡んでいた。しかも、全部負け試合というのが逆に凄い。鷹木の凄さは攻撃だけでなく、受けに回っても抜群に光る試合をすること。プロレス大賞受賞も納得。
7位 竜とそばかすの姫(劇場アニメ)……下半期ベスト作品の最有力候補であったが、他作品の凄まじい追随でこの順位。映像美、音楽美、主題の回収を台詞に頼らない演出の美点も多かったが、唐突に深夜バスで四国から東京を目指すサイコロの旅みたいな展開を筆頭に、脚本の辻褄と登場人物の行動の間尺のあわなさという欠点も大きかったからなぁ。細田作品は奥寺佐渡子女史が脚本を降りた頃から善くも悪くも物語の整合性や完成度を目指さなくなったと思うンだわ。
6位 残響散歌(ニューミュージック)……個人的には決して好きではないアニメ版『鬼滅の刃』第2シーズンを見続けているのは当該主題歌の功績大。予告PVで放送されたサビの箇所を何十回もリピートしてしまったのを覚えている。『SPARK AGAIN』以来の、Aimerには珍しいアップチューン曲。こんなんライブで聴いたら絶対盛りあがるやろ。死ぬまでに一度はコンサートに行こうと決心した。
第5位 ニニンがシノブ伝ぷらす(漫画)
音速丸「眼鏡っ娘が眼鏡取ったら実はかわいかった……なんてシーンがあるが、んなわけあるか! そんな子、元々かわいいだろが! むしろ、それに気付いてなかった男の方が眼鏡かけなきゃならん程目が悪かったってオチだわね! あと、かわいい巨乳の子が他人の赤ちゃんだっこしたら、おっぱい吸われそうになって『私まだ出ないよぉ』って言うシーン……これは死ぬまでに実物見たいです!」
先日、一部ツイッター界隈で物議を醸したデ〇ズニーの眼鏡キャラクター論争に無慈悲なトドメを刺すと共に新たな性癖論争を巻き起こす音速丸。21世紀に眼鏡キャラを主人公にするだけで多様性をアピールした気になるとか、流石にポリコレの本場は日本の創作の遥か遠くを走っていると思った。勿論、周回遅れの意味で。
それはさて置き、私が天才と思う漫画家が三人いる。問答無用の手塚治虫。ルネ・マグリットのように『作風と真逆の堅実さ』で一度も原稿を落としたことがない荒木飛呂彦。そして、冒頭の台詞に代表される病的な変態妄想フレーズを思いつく古賀亮一である。前作の連載開始から二十年後の復活となった本作も、基本的にオゲレツなエロネタが大半を占めているにも拘わらず、画的な露出は控え目。あくまでも、
病的な妄想ネームの秀逸さとほぼ全てのコマがオチになるリズムの巧さ
がギャグの生命線となっている。前作の愛読者は迷わず読むべし。そういや、来年高校卒業する甥っ子が生後一カ月の頃に贈ったキャラ人形(?)が音速丸であったような気がする……年齢取る訳だ、俺。
第4位 ウマ娘プリティーダービー 第2期(TVアニメ)
ライスシャワー「ライスはヒールじゃない……ヒーローだ!」
リアタイ放送時は第1期第1話のウイニングライブのシーンで『ああ、よくあるアイドルものか』と視聴を切り、周囲の評判を知って見始めた再放送も第1期は殆ど盛りあがることもなく、半ば惰性で見続けていたが、第2期に入ってから異様に面白くなり、上記のライスシャワーVSメジロマックイーンの春天は自分でも気づかないうちに目から鼻汁が垂れた。私の世代ではレコードブレイカーの悪名で知られ、よしだみほの『馬なり1ハロン劇場』ではブイブイいわせるKY系強気キャラで描かれていたライスシャワー(あれはあれで好き)が、自己肯定力の低い健気系女の子になるとは……ちなみに推しはツインターボとメジロマックイーン。基本的にお嬢様属性に興味のない私がマックイーンに惹かれた理由は自分でも判らなかったが、のちに登場したマックイーンのおばあさまのキャスティングで全てを理解した。無意識に榊原さんレーダーが発動していたのね。
まぁ、個人的な嗜好はさて置き、何故、第2期から面白く感じたかというと単純に、
トレーナーの出番が減ったから
であろう。以前、ガルパンについて『男性キャラを一切登場させないことで生臭さの排除に成功した』と書いた記憶があるが、仮に蝶野教官が男性で、ことあるごとにみぽりんたちとイチャイチャするシーンがあったら、あれほどの人気コンテンツにならなかったことは想像に難くない。ソシャゲ原作の宿命とはいえ、飛び抜けた個性も才能も面白味もないトレーナーが主人公同然の顔で娘たちと絡む姿を見せられて、何が面白いのかと第1期のスタッフに問いたかったので、第2期での方針転換にはニンマリ。本作は競馬をベースにした女の子たちの純粋なスポーツものであるから面白いのだ。百合の間に挟まりたがる男はウマ娘に蹴られるべきなんだなぁ。史実同様、勝利を観客からのブーイングと溜息で報われたライスへ、共にレースを駆けた他のウマ娘が拍手を送るシーンは『いだてん』の前畑VSゲネンゲルを思い出したよ。
尚、2021年下半期は2013年、2018年に続く三作品同着TOP3となった。
第1位① 『異次元体験・闇と炎の秘儀~お水取り~』(ドキュメンタリー)
ナレーション「これから、異次元への旅へお連れしましょう。闇と炎の狭間に仏や神々が集う奇跡の空間。1300年間の記憶や願いが混ざり合い、伝説と現実が溶け合う異次元への旅へ……」
令和の世にNHKが送り出した究極のヒーリングコンテンツ。詳細は本放送時に触れたので省くが、今でも微妙に寝つきの悪い夜には横になって本作を見つつ、
「あぁ~~いい塩梅だぁ~~」
という独り言を漏らしながら眠りにつくことも。前回の記事では仏教=ロック説をベースに修二会を解説(?)したが、視覚や聴覚への適度な刺激によるリラクゼーションという意味ではASMRに近いかも知れない。闇に舞う炎の幻影&一定のリズムと心地よい破調が織りなすハーモニーは、荘厳な信仰の儀式というよりも、人類が1300年という歳月を掛けて磨き続けたトランス技術の精華であるように思えた。これ、完全版を出してくれたら絶対に買うけど、流石に著作権者(?)は許可しないよなぁ。宗教関連の題材は深堀しないのが無難なので、紹介文も短めで……というか、ここまででも充分にボーダーラインを踏み越えているという自覚がある。
第1位② 忠臣蔵狂詩曲№5~中村仲蔵 出世階段~(SPドラマ)
謎の武士「俺はな、役者が大嫌ぇなんだよ。俺たち武士をネタにして楽しんでやがる。特に『仮名手本忠臣蔵』。あれなんざ気に食わないね。おめえらが思うほど武士は単純じゃねぇ。忠義か自分の生命かと迫られたら、大概の武士は『てめぇの生命が大事』と思う。当たり前の話だ。美談に仕立てあげて俺たちの生き方窮屈にしてんじゃねぇ」
結局、コイツは誰だったんだ?
藤原竜也と中村勘九郎の共演とか『新撰組!』クラスタとしては総司と平助の時空を越えた交流として興奮してしまったが、マジでコイツが誰なのか判らない。もしかして、元ネタがあるのか、歌舞伎の世界では知る人ぞ知る存在なのか、本作のオリジナルキャラなのか、しかし、それは重要な問題ではない。それが判らない私でも純粋にドラマとして楽しめたことと『仮名手本忠臣蔵』の五段目を見たいと思わせてくれたことが本作の魅力であろう。
以前、大槻ケンジ氏の著書を紹介した際に触れたようにカウンターカルチャーが庶民の娯楽を経てハイカルチャーに至るのは文化芸術の理想的な進化過程である。その点は歌舞伎も同様で、当時の権力者に喧嘩を売る演目で庶民の人気を博したジャンルが、現在では日本を代表する文化の座に収まっているが、ハイカルチャー化した文化は安定した権威と引き換えに或る種の敷居の高さが生まれやすい(事業自体が継続されれば、漫画やアニメというジャンルも同じルートを辿るであろう)。実際、私の歌舞伎への関心は他のジャンルよりも隔意があり、正月に放送されたナウシカ歌舞伎も正直ちょっとアレな感じで、結構な距離感が生まれてしまっていたが、本作視聴後は『実際の忠臣蔵の五段目が見たい!』と思うようになった。ある意味で究極の宣伝番組である。日本の演劇界のジャンルの垣根を越えた豪華過ぎる出演陣が上滑りしない軽妙で巧緻な作劇も魅力の一つ。個人的には後編で茶碗一杯の冷酒を一気飲みする謎の武士に『うめー! 悪魔的だー!』といわせてくれたら完璧であった(カイジ脳)。あと、これはナウシカ歌舞伎や『いだてん』の時から思っていたけど、七之助さんて何であんなに反則的にエロいんですか?
第1位③ 機動戦士ガンダム~閃光のハサウェイ~(劇場アニメ)
ハサウェイ・ノア「例外規定があるかぎり、人は不正をするんだ」
先述の二作品がなければ、恐らくは2014年の『ゲーム・オブ・スローンズ』以来のブッチぎりの単独トップ当選となったであろう作品。余程思い入れがあったのか、発売日当日に私の注文ミスで同じブルーレイが二枚届いたのもいい思い出である。喜びも二倍ニバーイ!(白目)
しかし、それすら大した精神的ダメージにならなかったのは、単純なクオリティの高さに留まらない、私の好みにドストライクの作風であったためであろうか。私が本作にドハマリした理由は以前の記事で『出演陣がプロ声優揃いのおかげで、脳内で演技にアジャストを掛ける手間が省けたため』と述べたが、他にも大きな要因があったと思う。
一つには生々しいエロさが挙げられる。本作の女性キャラクターは矢鱈とエロい。全てのキャラクターに先駆けてフレームインするメイス・フラゥワーはスタイルといい、口元のホクロといい、スッチーさんの制服といい、種崎敦美さんヴォイスといい、存在そのものがエロい。ギギ・アンダルシアも然り。このエロさが観客の目を釘づけにする力になっている。実際、私は冒頭でメイス・フラゥワーのエロさに惹きつけられたおかげで、難解極まるストーリーにも食いつくことが出来た。勿論、必然性のあるエロさもキチンと盛り込まれており、ハサウェイが空襲を受けた(受けさせた)ホテルのエレベーターで乗り合わせたお偉いさんの連れの女性がそれ。このシーンには女性のバスローブから露出した谷間を流れる汗を見たハサウェイが不倫リゾートうまぴょいの喜びを知りやがってとアースノイド上層部の腐敗に改めて不快感を抱く意味があったと思う。創作におけるエロさは罪ではない。エロさを使いこなせるか、エロさに乗っかるだけで終わるかの違いがあるに過ぎない。その点で本作はエロさの使い方が絶品であった。
もう一つの要因はガンダムと銘打ちながらも本格的なMS戦はラスト数分に凝縮させるという思い切った構成である。一応、中盤にハサウェイの密命を受けたガウマンたちのダバオ襲撃作戦があるが、あれは人間視点で見たMSによる空襲の恐ろしさが主眼で、対等の条件で繰り広げられる戦闘はΞガンダムVSペーネロペーのみ。そして、それ以外のシーンの殆どはマフティーのテロ活動に関わる人間サイズの友情・愛情・駆け引き・騙し合い・思想戦で構成されている。これと似たフレームの作品で思い出したのが、
劇場版機動警察パトレイバー2
である。あちらはテロを防ごうとする側の視点に対して、本作はテロを仕掛ける側の物語ではあったが、ロボットSFで尺の殆どを会話劇に費やしたうえ、些か食い足りなさを覚えるくらいのバトルで〆というフレームは似通っているように思う。まぁ、パトレイバー2は押井御大によるシリーズの総決算で、本作は第一作で世界観の解説が優先されたという各々に異なる事情はあったにせよ、私が未だにナンバーワン邦画に推すパトレイバー2に通じるものを感じたのが、今回の順位を決定づけた。視聴当時はアレな印象しか残らなかったEDテーマも連邦の反省を促すダンスでネタとして楽しめるようになったから◎。
尚、本作の世界観や脚本面の精緻な感想や分析をお求めの方は是非、装鉄城さんのブログを御覧頂きたい。私の知るかぎり、最も優れた本作の解説記事と思われる。
さて、ベスト10はここまでとして、今季は2020年上半期以来、一年半ぶりのラジー賞も発表。
ゴールデンラズベリー賞 白い砂のアクアトープ(TVアニメ)
諏訪哲司「あの反応は想定内だ」
或るキャラクターを除けば、それなりに楽しめた作品なので、ラジー賞に叙するか結構悩んだが、今年見た中で最も不快なシーンが多かったのも事実ということで、敢えて選出。勿論、或るキャラクターとは上記したティンガーラ副館長・諏訪哲司に他ならない。以前の記事で述べたように、
新入社員を他の従業員の前で侮蔑的な意図でつけた仇名で呼び続ける
新入社員に他部署の協力が必要な仕事を振るのに全く調整に動かない
新入社員に残業・完徹・早朝出勤しても終わらない仕事を押しつける
と無惨様が真人間に見えるレベルのパワハラ柱である。作中では『有能ゆえに仕事に厳し過ぎる人』みたいなポジションに設定されているが、当の本人は自身が担当していたイベントがポシャッたという理由で明日までに新しい企画を考えてこいと無茶振りをするとか、仕事の優先順位を伝えずに山のような書類を机にドカ積みして、その中の超重要案件を新人が見落とす原因を作ってしまうとか、タダでさえオーバーワーク気味な主人公の仕事を満足にチェックしないまま、営業先でのプレゼンに失敗するのを全くフォローせずに見ているだけとか、主人公が悪夢に魘されて眠れなくなるまで追い込んで、遂に無断欠勤させてしまうとか数々の無能ムーブを晒しているので、全く説得力がない。最終回直前に館長の口から、
「彼はウチに来る前は銀行員で、倒産した水族館の閉館処理を担当した際に、引き取り先のない生き物たちが処分されるのを見て、そういうことが二度と起きないように命を守りたいと決意した」
との過去が語られたが、如何せん先述した自分のイベントがポシャッた際に提案されたウミウシ展で『エサがない状態では展示出来ない』という主人公の反対意見を俺たち営業部の知ったことではないと一蹴しているので、そんな人間が命を守ると決意したとかいう話は副館長が天性のソシオパスか、館長が諏訪の就活トークを真に受ける阿房のどちらか、或いは両方であろう……というか、生き物の命を守るためには部下のホモサピエンスにパワハラしてもええんかいという話である。職業モノのアニメにも拘わらず、主人公が乗り越えるべき存在が業界特有の慣習ではなく、理想を阻むブ厚い現実でもなく、タダの無能なパワハラ上司というのでは、物語の舞台に水族館を選んだ意味がない。副館長は色々な意味で世間知らずな主人公が一人前の社会人になるための壁役を務めるべきであったが、その重要な役割を不適格なキャラクターに任せたがために、主人公が何に苦しみ、どう乗り越えたのかが全く伝わらなくなってしまった。本作と諏訪哲司の存在は、
ただ一人のキャラの設定ミスが作品全体の評価を台なしにしてしまう
という稀有な悪例として、今後の創作界隈において、貴重なサンプルとして語り継がれるべきであろう。
さて、来年の候補作は冬アニメに絞っても『あたしゃ川尻こだまだよ』『平家物語』『ストーンオーシャン』『ハコヅメ』となかなかに充実したラインナップ。『古見さんは、コミュ症です』もBSでやってくれると嬉しいのだが。勿論、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』もベスト有力候補の一角。あと、今年は劇場で鑑賞出来なかったが、口コミでの評価が高い『アイの歌声を聴かせて』も興味深い。レンタルリリースされたら借りてみよう。邦画では『決戦は日曜日』が楽しみ。りえりえ演じるアレな政治家(候補)に振り回される窪田正孝君とか……君はいつもそういう役が上手いよね。